新電気事業法における供給能力確保義務を考える(続)

インバランス料金議論に関する補論


Policy study group for electric power industry reform

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 政府が進めている電力システム改革議論の主要論点に、インバランス料金の見直しがある。中でも、余剰側と不足側のインバランス料金注1)に価格差を設けるかどうかが大きな論点となっているが、議論に混乱があるように感じられる。どうも、新電気事業法における供給能力確保義務の解釈にその原因があるように感じられるので、少し整理しておきたい。

 制度設計WGの委員である松村東大教授は、余剰側と不足側のインバランス料金を同一にするべきと主張している。「電力改革に欠かせないインバランス料金の見直し」によると、その理由は、同一にすれば、事業者の規模に対して中立になる(=小規模な事業者に不利にならない)とのことである。他方で、余剰側と不足側で価格差を設けることを主張する理由が、「供給予備力を確保する誘因が強くなること」との理解の上で、この論を批判している。この批判が混乱しているように思える。

 具体的には、次の箇所である

価格差によって予備力確保の誘因が増し、この値をコントロールすれば系統全体で必要な予備力を適切に確保できるかもしれない。しかしこの誘因は規模にも依存する。変動がならされる市場シェアの大きな事業者は相対的に小さな予備力で対応できる。結果的に小規模事業者に不均等な予備力を強いることになり不公正である。
さらに、小規模事業者が不均等に抱え込む小規模な予備力が系統全体で効率的に利用しにくい点を考えれば、非効率でもある。
シェアの格差が小さかったとしても、200の発電機を20社で保有しているケースと5社で保有しているケースでは、同じ値差でも各社が自主的に備える予備力の総計が変わる。しかし本来系統全体で必要な予備力が2つで大きく異なるわけではない。そもそも必要な予備力は系統全体の視点で確保し、それを個々の事業者に安易に囲い込ませず市場メカニズムなどを使って効率的に利用すべきで、値差によって無理に歪んだ誘因を与えて確保させるのが効率的か考えるべきだ。

 上記は、余剰側インバランス料金<不足側インバランス料金に対する批判というよりも、新電気事業法第2条の12及びそれに対する政府解釈、つまり「小売電気事業者は、その小売供給の相手方の最終的な実需給段階の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保しなければならない」としたことに対する批判である。

 実需給の1時間前のゲートクローズの段階では、各小売事業者の需要計画と発電計画はバランスしているので、インバランスは、ゲートクローズ後に発生したイベント注2)(需要の変動、電源トラブル)が原因で発生する。それに卸電力取引所が閉場しているゲートクローズ後、つまり実需給まで1時間を切った段階で、個々の小売電気事業者が対応しようとしたら、個々に供給予備力を抱え込むしかなく、それは松村教授の言う通り、小規模事業者ほど大きな負担となるだろう。

注1)
新たな電力システムに即して言うと、小売電気事業者は実需給の1時間前のゲートクローズ時点で、1時間後のコマの需要計画とそれとバランスした発電計画を系統運用者に提出する。その後に発生したイベントにより、結果として需要>発電となるとその差分を系統運用者が補てんすることになり、その単価が不足側のインバランス料金である。また、需要<発電となるとその差分を系統運用者が買い取ることになり、その単価が余剰側のインバランス料金である。
注2)
厳密に言うと、需要の変動については、需要側計量情報の提供時間に制約があるため、ゲートクローズ前に発生したいイベントでゲートクローズ後に小売電気事業者が認識したものを含む。