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久しぶりのボン(その2)

-省エネ専門家会合に出席-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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 2日間の議論を踏まえ、14日午後のADP全体会合でソコナ・再エネ専門家会合ファシリテーターと共に結果報告を行った。私の報告の骨子は以下のとおりである。なお、UNFCCCのサイトでその時のサマリー全文及びウェブキャストで私の報告の模様が掲載されている。

https://unfccc.int/files/bodies/awg/application/pdf/tem_on_ee_summary.pdf

http://unfccc4.meta-fusion.com/kongresse/cop19/templ/play.php?id_kongresssession=7869&theme=unfccc

ADP全体会合(左2番目より筆者、クマルシン、ルンゲメツカーADP共同議長、ソコナ再エネファシリテーター)

省エネポテンシャルを最大限発揮するためには、各国の政策プライオリティの中で省エネの位置づけを高めると共に、各省庁間、中央政府・地方政府間の連携が不可欠。
省エネ法や実施機関に裏打ちされた包括的な省エネ戦略が必要
コストを反映したエネルギー価格は省エネ政策の実効性確保の前提
省エネ基準の設定とその厳格な実施が重要
省エネ投資は経済的にペイするものであるが、その加速のためにはインセンティブが必要
省エネラベルを含む消費者への情報提供と意識向上が必要
省エネポテンシャルを更に拡大するためには研究開発の推進も必要
省エネの阻害要因は上記の裏側、即ち各国の政策における省エネのプライオリティの低さ、政策の企画・実施のキャパシティ不足、コストを反映しないエネルギー価格、資金問題等。
UNFCCCは加盟国や国際機関の間で省エネに関するベストプラクティスをシェアするプラットフォームとして有益。
更にUNFCCCで整備が進んでいる技術メカニズム(Technology Executive Committee, Climate Technology Centre and Network)、資金メカニズム(Green Climate Fund)が省エネ関連の途上国支援に有効に使われるよう、省エネに関する議論と技術・資金メカニズムに関する議論の連携が必要。
省エネ分野ではバイ、プルリ、地域、マルチの国際支援イニシアティブが既に多数存在し、これらを最大限活用すべき。各国のニーズとこれらの支援イニシアティブの間のマッチングを検討すべき。

 一番目の点は私がIEAの国別審査課長をしていた頃から各国エネルギー審査で強調してきた点である。省エネは費用対効果の高い施策であるにもかかわらず、多くの国で政治的により「セクシー」な再生可能エネルギーに相対的に高いウェイトが置かれている傾向が見られた。今回の専門家会合では途上国においても同様な傾向があるとのコメントもあった。地味ではあるがエネルギー安全保障、温暖化防止、コストの面で優れた省エネのプロファイルをもっと上げるべきだと思う。

 最後から二番目の点も重要だ。議論の中で資金メカニズム、技術メカニズムが途上国の再生可能エネルギー、省エネ普及につながるためには、timely, integrated, tailor-made and affordable であることが必要との指摘があった。かつてCDMの手続きを交渉した際、現場から遊離した交渉官達がよってたかって厳密さを求めた結果、非常に複雑で時間のかかるものになってしまった。資金メカニズム、技術メカニズムは現場におけるニーズが実現するような現実的なものでなければならない。

 しかし、上記のサマリーの中で私が特に強調したかったのは実は最後の点である。私自身、APECや東アジアサミットのプロセスで省エネに関する国際協力を推進してきた。IPEEC(国際省エネ協力パートナーシップ)も2008年の洞爺湖のG8プロセスの中で種をまいてきたものである。下の図はIEAのプレゼンの中に含まれていた省エネ協力に関する既存の国際イニシアティブのリストである。文字が小さく読みにくいだろうが、いちいち判読していただく必要はない。要するに省エネの色々な分野でこれだけ色々なイニシアティブがあるということである。

省エネに関する国際協力イニシアティブ(出所WRI)

 私がこの専門家会合のファシリテーターを引き受ける際、「省エネ政策を実効有らしめるためには、結局は各国の自助努力が必要。この会合の『成果』として国連の場で省エネに関する新たな協力イニシアティブを立ち上げるという議論は、屋上屋を架するものでしかなく、絶対に避けるべき」と思っていた。

 各国、国際機関のプレゼンがひとわたり終わった後、「国連を含むマルチの場で何ができるか」という議論に入った際、私は上記の表をスライドに写し、「途上国の方々にお聞きしたい。これまで国際機関がプレゼンしたイニシアティブやここに掲げられているイニシアティブをどの程度活用されているか。活用されているとすれば、どのような点で改善が必要か。また活用していないとすれば、その理由は何か」という問いかけをした。途上国から既存のイニシアティブについての不平不満が沢山出てくることを予期していたのだが、驚くべきことに、資金メカニズムや技術メカニズムに関するコメントはあったが、私の問いかけに対する直接の応答はほとんど皆無であった。「これはどういうことだろう」と思ったが、考えられる答えは2つである。第1に途上国がいろいろな国際協力イニシアティブについての情報を持っていないというケースだ。第2は途上国のエネルギー部局はこれらのイニシアティブを承知している、もしくは活用しているのだが、専門家会合に出席している交渉官との間の横の連絡がほとんどなされていないというケースだ。恐らくその両方なのだろう。「省エネ専門家会合」と銘打っていても、プレゼンター以外の出席者の顔ぶれを見ると半分以上は交渉官であり、各国で省エネ政策を実施している担当者ではない。世銀やGEF等の国際機関に質問しても途上国からの利用申し込みが多くて品切れ状態にあるわけではないようだ。更に枠を上回る途上国のニーズがあれば予算も拡大されるという。「新たなイニシアティブ」を考える前に、まずは既存のイニシアティブを最大限活用すると共に、足らざる点は改善するといったアプローチが現実的だと思う。

 とはいえ、2日間の議論を通じて、私にとって嬉しかったことは、AWG-KPに代表されるこれまでの国連交渉と異なり、全体に協力的な雰囲気が強かったことだ。もともと省エネにおける各国のベストプラクティスの共有を大きな目的とするワークショップであって、交渉会合ではない。途上国からのコメントも、「省エネパフォーマンスを測る指標としてエネルギー原単位は適切なのか?」とか「自分の国のようにGDPが小さいところで省エネのメリットはどこにあるのか?」といった真面目なものが多かった。島嶼国ナウルの専門家は大学の先生である故か、色々なセッションに点数をつけていたが、省エネ専門家会合終了後、「この会合はA評価だね」と言ってくれたのも嬉しかった。

 「省エネを途上国に普及するために何が課題か」というテーマが含まれていたため、「途上国の省エネが進んでいないのは先進国からの資金、技術援助が足りないからだ」という紋切り型の先進国批判が出てくるかと思ったが、そのような議論はほとんどなかった。もっとも、そういう議論をする交渉官達は同時並行で行われている将来枠組みの議論に出席していたのだろう。

 事実、専門家会合の空き時間にAWG-DPの将来枠組みの議論を傍聴したが、フィリピンのベルナルディータス女史や中国のスーウェイ局長を初めとする、いつもの面々がいつもの議論を展開しており、以前にも書いたが、タイムスリップしてAWG-LCAの議論を聞いているような気分になった。それを聞きながら、「ああ、交渉官を卒業して良かった」と独語するとともに、後輩たちの苦労が思いやられたものである。

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