久しぶりのボン(その2)
-省エネ専門家会合に出席-
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
各国、国際機関のプレゼンがひとわたり終わった後、「国連を含むマルチの場で何ができるか」という議論に入った際、私は上記の表をスライドに写し、「途上国の方々にお聞きしたい。これまで国際機関がプレゼンしたイニシアティブやここに掲げられているイニシアティブをどの程度活用されているか。活用されているとすれば、どのような点で改善が必要か。また活用していないとすれば、その理由は何か」という問いかけをした。途上国から既存のイニシアティブについての不平不満が沢山出てくることを予期していたのだが、驚くべきことに、資金メカニズムや技術メカニズムに関するコメントはあったが、私の問いかけに対する直接の応答はほとんど皆無であった。「これはどういうことだろう」と思ったが、考えられる答えは2つである。第1に途上国がいろいろな国際協力イニシアティブについての情報を持っていないというケースだ。第2は途上国のエネルギー部局はこれらのイニシアティブを承知している、もしくは活用しているのだが、専門家会合に出席している交渉官との間の横の連絡がほとんどなされていないというケースだ。恐らくその両方なのだろう。「省エネ専門家会合」と銘打っていても、プレゼンター以外の出席者の顔ぶれを見ると半分以上は交渉官であり、各国で省エネ政策を実施している担当者ではない。世銀やGEF等の国際機関に質問しても途上国からの利用申し込みが多くて品切れ状態にあるわけではないようだ。更に枠を上回る途上国のニーズがあれば予算も拡大されるという。「新たなイニシアティブ」を考える前に、まずは既存のイニシアティブを最大限活用すると共に、足らざる点は改善するといったアプローチが現実的だと思う。
とはいえ、2日間の議論を通じて、私にとって嬉しかったことは、AWG-KPに代表されるこれまでの国連交渉と異なり、全体に協力的な雰囲気が強かったことだ。もともと省エネにおける各国のベストプラクティスの共有を大きな目的とするワークショップであって、交渉会合ではない。途上国からのコメントも、「省エネパフォーマンスを測る指標としてエネルギー原単位は適切なのか?」とか「自分の国のようにGDPが小さいところで省エネのメリットはどこにあるのか?」といった真面目なものが多かった。島嶼国ナウルの専門家は大学の先生である故か、色々なセッションに点数をつけていたが、省エネ専門家会合終了後、「この会合はA評価だね」と言ってくれたのも嬉しかった。
「省エネを途上国に普及するために何が課題か」というテーマが含まれていたため、「途上国の省エネが進んでいないのは先進国からの資金、技術援助が足りないからだ」という紋切り型の先進国批判が出てくるかと思ったが、そのような議論はほとんどなかった。もっとも、そういう議論をする交渉官達は同時並行で行われている将来枠組みの議論に出席していたのだろう。
事実、専門家会合の空き時間にAWG-DPの将来枠組みの議論を傍聴したが、フィリピンのベルナルディータス女史や中国のスーウェイ局長を初めとする、いつもの面々がいつもの議論を展開しており、以前にも書いたが、タイムスリップしてAWG-LCAの議論を聞いているような気分になった。それを聞きながら、「ああ、交渉官を卒業して良かった」と独語するとともに、後輩たちの苦労が思いやられたものである。