京都議定書の経験を踏まえた新たな国際枠組みについて
笠井 俊彦
元環境省環境経済課長
1.京都議定書と温室効果ガスの削減
1990年から2010年にかけて世界の温室効果ガスの年間排出量は100億tCO2e以上増えている。
(1) 京都議定書が見逃したモントリオール議定書フロンの大量排出
まず、京都議定書は全ての温室効果ガスを扱っておらず、特に排出規制のないモントリオール議定書のフロン(CFC,HCFC)の大量排出を20年近く放置してきている。既に2005年にIPCCとTEAP(モントリオール議定書の技術・経済評価パネル)が出したSpecial reportで、冷蔵・冷凍・空調機器等の機器の中に含まれているフロンが世界全体で年間20億トンCO2eから25億トンCO2e放出されているとしている。この大部分は途上国におけるモントリオール議定書のフロン(CFC、HCFC)の排出である。さらに、ストックで200億トンCO2e以上のフロンが機器などに充填済みで、今後排出される可能性がある。この報告書が発表された2005年から10年近く経っても、機器中(冷凍冷蔵空調機器、断熱材等)に存在するフロン類(国際的には「フロンバンク」と呼ばれる)の放出防止のための対策は世界的に進んでいない。
また、2011年にUNEPのオゾン事務局科学評価パネルが公表した「オゾン層破壊の科学的評価2010」ではCFC,HCFCの代替物質として利用されているHFCの使用量が急速に増加しており、2050年の年間排出量はCO2換算で約55億トン~88億トン相当となると警鐘を鳴らしている。最近になって京都議定書フロンHFCの生産消費規制が言われ始めたが、既存機器の中にあるフロンの回収破壊を行わないで冷媒代替の伴う機器更新を進めれば、既存機器の中にあるフロンが大量に放出される。CFC,HCFCの回収破壊を行わないでHFCの生産消費規制だけを行うことは代替促進=既存機器からのCFC,HCFCの大量放出を招く誤った政策である。
(2) 京都議定書にみるCO2偏重の対策
次に、京都議定書の6ガスに限ってみても、京都議定書は付属書Ⅰ国には6ガスの排出量報告を義務付けているが、非付属書Ⅰ国にはCO2,CN4,N2Oの報告しか義務付けておらず、6ガス全体の排出がどうなっているかがつかめない仕組みになっている。
1990年から2010年にかけての世界の温室効果ガスの排出量を見るにはIEAのエネルギー統計を使う方法により、この20年間で世界全体のCO2年間排出量は100億トンCO2eくらい増えている。環境省の資料によると、1990年から2000年の間と2000年から2010年の間で排出量を増大させた国は異なっている。
(IEA資料から環境省作成)
また、天然ガスがCO2の排出の少ない化石燃料と言われているが、採掘段階ではガスに含まれるCO2を大気中に放散してしまっている。採掘するガス量の2割ものCO2を含むガス田もある。ガス田を持つ国の多くは削減義務を持たない国なので、当たり前のようにCO2を大量放出している。