地球温暖化対策の不要が、
「脱化石燃料社会」への途を開く
-ポスト京都議定書の国際協議に向けて-
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
「脱化石燃料社会」への国際協力が日本経済の苦境を救い地球を救う
繰り返しになるが、地球上の化石燃料資源量の制約から、IPCCが主張する人為的CO2の排出による温暖化の脅威が起こることは考えなくともよい(文献 5 参照)。これを敢えて言えば、IPCCによる温暖化の恐怖は、幻想に過ぎないことになる。すなわち、温暖化対策のためのCO2の排出削減を目的としてわが国が追及してきた「低炭素社会」に代わって、やがて来る化石燃料消費の枯渇に備えて、化石燃料に依存しない社会が創生されなければならない。私は、これを「脱化石燃料社会」と呼んで、その創生の必要性を訴えてきた(文献6)。地球上で、化石燃料が枯渇に近づいたときに心配なのは、国際間で化石燃料資源の争奪を巡っての紛争が起こることである。エネルギー資源を持たない日本は、真っ先にその影響を受けることは間違いないであろう。
第2次大戦後、日本が世界第3の経済大国(中国に抜かれるまでは世界第2)になれたのは、世界平和を追及して軍備にお金を使わなかったこと、経済発展のためのエネルギー源となった化石燃料の国際価格が非常に安価であったこと、さらに、この安価な化石燃料を使って文明社会を創りだす科学技術を育てる力があったからである。しかし、これまでの科学技術は安価な化石燃料消費に支えられた技術であることも忘れてはならない。すなわち、化石燃料の枯渇後の、自然エネルギーのみに依存する「脱化石燃料社会」は、現代文明社会とは違った価値観をもった新しい科学技術に支えられる社会でなければならない。また、この「脱化石燃料社会」への変換の過程では、いままで便利に使われてきた化石燃料の価格の高騰は避けられないから、日本経済にとっては苦難の時代が予想される。貿易立国日本にとって、この懸念は、すでに、貿易赤字の継続の形で顕在化しつつある。
当面は、この貿易赤字を少しでも減らすような化石燃料の輸入金額を節減するためのエネルギー政策を推進しながら、世界を「脱化石燃料社会」に変換させるための国際協力の実践に政治的なリーダーシップをとることが、苦悩する日本経済を救うとともに、地球を救う途でなければならない。環境・エネルギー政策の決定に与かる方々のご理解と行動をぜひお願いしたい。
- <引用文献>
- 1.
- 久保田宏:温暖化より怖いのはエネルギー資源の枯渇だ ieei 2014/03/14
- 2.
- 杉山大志:環境史に学ぶ地球温暖化、エネルギーフォラム、2012年
- 3.
- 久保田 宏:IPCC 第5 次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その2):地球温暖化のCO2原因説に科学的根拠を見出すことはできない ieei 2014/01/21
- 4.
- 日本エネルギー経済研究所編:「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2013年版」、省エネルギーセンター、2013 年
- 5.
- 久保田宏:IPCC 第5 次評価報告書批判-「科学的根拠を疑う」(その1):地球上に住む人類にとっての脅威は、温暖化ではなく、化石燃料の枯渇である ieei 2014/01/15
- 6.
- 久保田宏:脱化石燃料社会――「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い、地球を救う、化学工業日報社、2011年