今後電気料金が上がる3つの理由
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
表の最下段「10/00」は、2000~10年の変化を表しており、この間、ドイツの家庭用電気料金は11.01セント/kWh上昇しているが、そのうち、平均燃料費の上昇と政策の影響で説明出来るのは、6.49ユーロセント/kWh(=0.43+3.23+2.83)である。規制料金であるネットワーク費用については、報告書の別のデータによればほぼ横ばいであることが確認されている。つまり、11.01-6.49=4.52ユーロセント/kWhがこれらでは説明できない価格上昇分になる。報告書では、「ドイツでの2000年以降の電気料金上昇は、再生可能エネルギー費用負担および税負担額の拡大が主たる原因であったと見ることができる」としているが、それら政策の影響や燃料費では説明できない料金上昇分が存在するので、少なくとも自由化がドイツの電気料金を引き下げたことはないと言える。
では、ドイツが特殊な事例なのだろうか。実は報告書には、「日本を除く調査対象国では、電力自由化開始当初に電気料金が低下していた国・州もあったが、おおむね化石燃料価格が上昇傾向になった2000年代半ば以降、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じている」とある。自由化を行った国・州の多くで、電気料金引き下げ効果は見られず、むしろ燃料費の上昇率を上回る料金上昇が生じているとの分析結果が示されているのである。
電力自由化の多くは、料金規制のもと供給義務を果たすために、大幅な設備余剰を抱え「メタボリック」になった電力事業を改善し、電気料金を低減することを目的としていた。仏、独、伊など欧州各国の自由化開始時の設備率(その年の最大電力に対する当該年の12月31日時点の設備容量の比)は1.5を上回っており、自由化当初は事業のスリム化による電気料金低減効果が見られたところもあるようだ。ドイツは日本のように段階を踏まず最初から全面自由化としたため、様子のわからない事業者が無理な値下げをしてしまったことも指摘されている。なお、設備率に余裕が無い状態(設備率1.06)で自由化を導入した米国カルフォルニア州においては、自由化直後電力危機を経験している。
ドイツにおいては自由化前、発送配電を一貫で行う電力事業者が国内に8社、小規模な地域事業者が約1000社ほどあったといわれるが、大手事業者は自由化後競争力・燃料調達力の観点から4社に統合された。寡占化が進み、自由化による競争効果よりも、規制緩和によって燃料価格や環境対策費などさまざまなコストを料金転嫁しやすいことの影響が大きく見られるようになったとされる。
現在、日本は原子力発電所の稼働停止により、慢性的な供給力不足にあえいでいる。この状況で自由化をすれば価格が上昇してしまうことは、不作のときの野菜が高値になることと同様、自明の理である。また総括原価主義や他の債権に比べて優先的に返済される電力債の一般担保といった制度が、もし、なくなれば、電力事業の資金調達コストは上昇し消費者負担として跳ね返ってくる。
以上見てきたように、今後日本の電力料金は上がる恐れはあれど、下がる期待を持てる要素はない。さらに4月からは消費税が8%となる。アベノミクスの成長戦略は、「企業が利益を出して社員の給与を上げることで消費が活発化する」という前提のもとに成り立っている。ドイツでは、もしエネルギーコストの負担が他国と同程度であれば昨年の輸出は150億ユーロ多かったであろうとの研究成果が報告された。企業の生産コストに直結する電力料金上昇がその足元をすくうことにならなければ良いが……。