容量メカニズムに関する制度設計WGでの議論で整理が必要なこと(第1回)

広域メリットオーダーとの関係


Policy study group for electric power industry reform

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 さて、このシミュレーションに関して、委員から次の発言があった。

大橋 委員(東京大学大学院 経済学研究科 教授)
 1,700億円は、限界発電費用を用いて算出されているが、これでは固定費の回収はできないので、もし容量メカニズムがなければここまでの効果は通常はないだろうと考えられる。つまり、限界発電費用に加えて、固定費も回収しなければならないので、ここまでの数字は達成できないということになる。容量メカニズムで固定費のところだけ抜き出せば、発電量の市場でみれば、この効果は十分出てくるかもしれないという意味では、容量市場を考えていくのは重要な論点だと考えている。

松村 委員(東京大学 社会科学研究所 教授)
 このシミュレーションは、電源構成を所与として運用によってどれだけ利益があるかというものであり、固定費の回収漏れがあるという議論など入り込む余地などない。これはメリットオーダーでやったとすれば、ということであり、限界費用が高いところの電源が焚き減らして、限界費用の低い電源が焚き増すということであり、マージナルコストの所で価格付けしたとしても損する人など基本的にいないはずである。これで回収漏れが起こる、固定費に関して損失が発生するという議論はよくわからない、基本的にはメリットだけである。

 この試算について、松村委員の指摘は「このシミュレーションでは電源構成は外生的なものであり、固定費はサンクコストなので、固定費回収とシミュレーションは関係ない」との趣旨と考えられる。これはシミュレーションの前提の説明として正しい。他方、大橋委員はシミュレーションの前提を理解していないわけではなく、シミュレーションの結果をリアルな世界で、かつ持続可能な形で発現させようする場合の条件を述べたと筆者は理解する。より詳しくは、以下のような趣旨である。

シミュレーションは、各電気事業者が、全時間帯において限界費用により卸電力取引を行っていることを前提としている。つまり、全電気事業者が卸電力市場において、まさにこの限界費用による売り入札及び買い入札を全時間帯で行えば、「限界費用が高いところの電源が焚き減らして、限界費用の低い電源が焚き増すこと」が起こり、メリットがリアルに実現する。
しかし、発電設備保有者が限界費用相当で余剰電力を販売すれば、特にピーク電源においては、固定費の回収が出来ない。発電設備保有者は、自社の持続可能性を考えれば、少なくとも上記の入札行動を全時間帯において行うことは出来ないことになる。
固定費回収を可能にするには、市場価格が限界費用よりも高いところで決まる時間帯が一定程度存在しなくてはならない(例えば、需要がピークの時間帯)。その時間帯には、発電設備を保有する事業者は自らの持続可能性を考えて、限界費用よりも高い売り入札をするので、「限界費用が高いところの電源が焚き減らして、限界費用の低い電源が焚き増すこと」は起こらない。つまり、この様な時間帯が存在する分、シミュレーションの前提(限界費用での取引)が成立せず、効果は目減りすることになる。
容量メカニズムを導入して、固定費の回収の懸念が払拭される状況が創出されれば、全時間帯において、発電設備を保有する事業者に上記の限界費用による入札行動(少なくともそれに近い行動)を促すことが出来る。その場合、事業者の行動に任せた形で、シミュレーションで示されたメリットが実現する。

 上記のシミュレーションで示された経済的効果1,700億円のうち、600億円を実現するには新たな投資(連系線の増強)が必要であるが、1,100億円は、現在の連系線容量の範囲内(つまり新たな投資をせずに)で得られる効果であるので、実現するとすれば無条件に望ましいことである。ただし、そのためには、容量メカニズムの導入が前提となると、大橋委員は主張したものと思料する。筆者も同意見である。

 ちなみに、第4回制度設計WGでは、一般電気事業者の卸取引のモニタリングとして、売買の入札価格が限界費用に基づいているか、いないかなどと議論がされていた。しかし、容量メカニズムを前提とせずに、限界費用による売り入札を“空気”によって促しても、持続可能なシステムにはならないことを留意すべきである。

<参考文献>
経済産業省(2014)『第5回制度設計WG 資料4-3事務局提出資料 卸電力市場の活性化について(卸電力市場活性化による効果試算)

執筆:東京電力企画部兼技術統括部 部長 戸田 直樹
 ※本稿に述べられている見解は、執筆者個人のものであり、執筆者が所属する団体のものではない。

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