COP19を振り返る ―新枠組みへの展望―

温室効果ガスを削減するのは技術!日本への期待


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 一方、特に先進国からの批判は、見直した目標の内容よりも、タイミングについてであったようだ。今回のCOP19は2020年以降の新たな枠組み構築に向けた交渉を進めることが主要テーマであった。再び京都議定書のように一部の先進国のみが削減義務を負う実効性に乏しい仕組みにすることを避けるため、先進国は一丸となって中国やインドなど大排出国となった「途上国」と対峙し、その参加を引き出すことに交渉の全精力を注ぐことが必要であった。先進国の交渉関係者からは、日本が新目標を持ち出し、先進国の交渉の足並みを乱したことへの批判があったという。
 しかし、ポーランド・ワルシャワでの2週間の交渉を振り返れば、日本がヤリ玉に上がったという印象はない。各国の削減目標よりも、先進国から途上国への資金・技術支援などについて多くの関心が集まったこと、交渉がなんとか破綻を免れ文書の採択に成功したこと、さらに日本が提唱する「二国間クレジット制度(JCM)」を通じた日本との協働に多くの途上国が関心を持ったことなど複数の要因によるものであろう。
 特にJCMについては、日本政府が主催した「JCM署名国会合」に署名8カ国全ての代表者が参加したほか、モンゴルやベトナムの代表は公式の場においてJCMへの期待を表明し、わが国にとって大きなサポーターとなってくれた。これまでの努力と幸運が重なり、日本は結果として今回のCOPで悪者にも敗者にもならずに済んだといえる。

JCM署名国会合。日本政府は今後署名国を倍加させる予定

新枠組み構築に向けた今後の展望と日本のなすべきこと

 日本が2020年までに05年比3.8%削減という新目標をどう達成するのか、また、どのような2020 年以降の目標を掲げるのかについては今後具体的な議論が行われる予定だが、日本の技術を世界全体での温室効果ガス削減に活かすべきであることは言を俟またない。目標に前提条件が付されていたからでもあるが、鳩山元首相が公表した野心的な目標がそれほど各国から高い評価を受けたわけでもなく、今回の新目標がそれほど大きな反発を呼んだわけでもないことを考えれば、日本に期待されていることは、自国の排出量削減よりむしろ世界全体での削減に技術で貢献することであろう。
 しかし、太陽光パネルなどの国際シェアを見れば明らかなように、多くの技術分野において中国や台湾、韓国企業に少なくとも設計性能上はキャッチアップされている。日本の産業界の技術開発が促進される制度的支援、基礎研究に対する国の投資など、改めて日本の技術力を高めることが必要だろう。その意味で技術開発に1100 億ドル(約11兆円)の国内投資は評価できる。
 今回の交渉で多くの途上国が関心を示した二国間クレジット制度は、まだ制度設計の中途である。「詳細はよくわからないが美味しそうなもの」で関心を引き寄せ、国際交渉における仲間づくりをするステップも必要であるが、そろそろ誰がどのような根拠により必要な資金を負担するのかという本質の議論、クレジットのダブルカウンティングをどのように避けるか、温室効果ガスの排出削減の実施状況に関する測定・国際的報告・検証する仕組み(MRV)をどう構築するかなどの具体論を急ぐ必要がある。
 並行して、日本の環境・省エネ技術が各国に導入されるよう、長期・低利のファイナンス制度の充実や知的財産に関する保護制度、省エネ法・トップランナー方式など低炭素社会構築に向けた制度の移転など、それこそ「あらゆる政策手段を投入して」日本の技術を実際の温室効果ガス削減に結びつけていく必要がある。
 交渉では温室効果ガス削減は図れない。削減を実際に可能にするのは技術であり、その技術の開発・普及を促進する制度設計が必要である。新枠組みを2020年に発効させるための交渉期限とされる2015年、フランス・パリで開催されるCOP21まで残された時間は多くない。気候変動問題は待ったなしである。世界全体を低炭素社会化するため、日本は官民一体となり、技術力をさらに進化させ、その普及を促す制度設計に汗をかき続ける必要があるだろう。

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