COP19を振り返る ―新枠組みへの展望―
温室効果ガスを削減するのは技術!日本への期待
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
日本の新削減目標への受け止め
現地時間11月20日、石原伸晃環境大臣がCOP19のプレナリー(本会議)で、わが国の2020 年までの温室効果ガス削減目標について、民主党政権が掲げていた1990年比25%削減を見直し、2005年比3.8%削減とすることを発表した。あわせて、温暖化に向けた革新的技術開発のため今後5年間で官民あわせて1100億ドル(約11兆円)の国内投資を目指すこと、途上国の温暖化対策支援に160億ドル(約1兆6000億円)を拠出することなども表明した。
実はこの新削減目標は閣議決定されたものでなく、安倍晋三首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部の決定を得たものでもない。「削減目標値を持たずにCOPに行けば、日本の交渉がもたない」との声に押され、麻生政権時代に「地球温暖化問題に関する懇談会」の下に設置された「中期目標検討委員会」の検討内容をベースに急ごしらえしたと推測される。
日本のメディアは新削減目標を「後退」と表現しているが、民主党政権下の「2020年時点において1990年比25%削減」という目標はそもそも見直さざるを得ないものであった。
民主党の鳩山由紀夫元首相は2009年9月の国連気候変動サミットで、この「25%削減目標」を表明。その後に策定されたエネルギー基本計画は、およそ実現不可能と思われた削減目標のつじつまを合わせるため、2030 年までに全電源における再生可能エネルギーの割合を19%、原子力を53%へと急拡大して低炭素化を図るとした。これらの実現可能性には、当時から疑問が持たれていた。
追い打ちをかけたのが、東京電力福島第一原子力発電所事故である。事故を契機に一時期を除いて日本の全原発(50基)が稼働停止する事態となっている。現在は電力の9割を火力発電が賄っており、25%削減を実現できるような具体的手段はない。
一部ではあるがそうした事情を理解した海外メディアの報道もあった。Times誌は「日本が非現実的な目標を捨て去り、グリーン技術の開発・普及に注力する旨の勇気ある表明をしたことは、より実効性ある温暖化対策への第一歩になる」(11月18日)と評した。Wall Street Journalは「日本は、地球温暖化の不確実性と経済的な現実性の賢明なバランスを取る国である。新たな削減目標においても、日本は世界最悪の排出国ではない」(11月20日)と記し、現実的な目標への見直しはそれなりに合理的な行動と評価した。
ただ、新削減目標の内容はさておき、なぜ今このタイミングで公表したのかについては議論の余地があるだろう。気候変動交渉に長く携わり、日本の状況にも詳しい海外の友人は「福島事故後すぐに目標値の見直しを発表すれば、誰も何もいわなかったであろうに」と指摘する。原発停止が全国に広がりここまで長引くとは、当時、誰も予想できなかったであろうから、今になってそれを日本政府に求めるのは酷なのかもしれない。しかし、少なくとも1990 年比25%削減という目標は撤回せざるを得ないということについて明らかにしておくべきであったのではないか。
震災直後に、代替する目標値を根拠をもって提示することは難しかったかもしれないが、今回提示した新目標も原発の稼働がないという仮定の下に掲げたものであり、閣議決定も地球温暖化対策推進本部の決定も得ていない。見直しの可能性も付言しているのだから、震災直後に「目標の見直しは不可避。新目標は状況が落ち着いてから公表」で押し通すこともできたであろう。
温暖化対策まで考える余裕がなかったことは想像に難くないが、放置してきたことで現状でのオプションが狭まったことは確かだ。当時の民主党政権は、震災直後のCOP17においてエネルギー政策の見直しについて言及したが、看板政策だった削減目標を撤回することは積極的に議論せずタイミングを逃してしまった。
日本の新削減目標に対し、交渉の現場では強い反発が示された。11月15日には「特別化石賞」を受賞し(日本が受賞したのはCOP 期間中1回のみ)、環境NGOが期間中に発行するニュースレターのうち11月16日号のトップタイトルは“Don’t Dropthe Ball , Japan(! 投げやりになるな、日本!)”だった。また、日本を名指ししていないものの、「COP期間中に目標値を引き下げるというこれまでにない対応をした国がある」といった非難も出た。