東京電力再生計画がもたらす波紋
新・特別事業計画は電力業界再編の引き金を引く
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
(「日経ビジネスオンライン」からの転載)
1月15日、東京電力の新・総合特別事業計画(原子力損害賠償支援機構が連名、以下「新総特」という)が政府に認可された。本稿では、新総特の意義とそれが引き起こす電力業界全体への影響を考えてみたい。
福島第一原発の汚染水処理が円滑に進んでいないこと、泉田裕彦・新潟県知事の強硬姿勢で柏崎刈羽原発の再稼働にメドが立たないことなどを背景として、このところ東京電力の法的整理を求める声が再度高まってきていた。
さらに国会では、自社に有利な条件で私募債を引き受け続ける金融機関に対して、応分の責任を分担しろという批判が強まってきている。
そうした中で、今回認可された新総特は、2012年4月に策定された総合特別事業計画を抜本的に見直し、東電の再生を図ろうとする意欲的なプランといえる。
そもそも、現時点で法的整理に踏み切れば、福島第一原発事故の損害賠償に支障が生じたり、廃炉作業を行っている事業者への支払いが滞ったりする問題が生じ、事故収束が困難になってしまう。
事故の直後なら法的整理も検討の対象になったかもしれないが、東京電力には、既に政府が1兆円の資金を投入しており、法的整理によってそれを無に帰することは政治的に受け入れられるものではない。したがって、東電の再生を目指す中で問題を解決していくしかないのが現状だ。
再生への最低条件、三大債務の青天井を回避
東電は政府の支援を受け、損害賠償や除染などすべての事故処理費用を負担し、政府から借りた資金は、今後の収益を元に返済することになっている。合理的な期間内に返済が完了する見込みを立て、社債市場に復帰して電力の安定供給のための前向きな設備投資を行う体力を回復することが、東電の再生には不可欠な条件となる。
それには、損害賠償や除染、廃炉費用などの債務を対処可能な範囲に収束させる必要がある。新総特が完成するまでには、これらの要素について政府・与党と東電・原子力損害賠償機構の間で、これらの問題についての厳しい交渉がなされていた。
損害賠償も期限を区切って決着させ、東電の賠償総額にめどがつくよう早期に債務を確定する必要がある。ただし、原子力損害賠償法による東電から個人への金銭補償だけでは、コミュニティの再生にはつながらない。
昨年12月、政府は新たな追加賠償策を決定し、移住を望む被災者の増加を踏まえた移住者住宅確保支援を新設する一方で、帰還者は元の地域に戻って生活再建を早期に進められるよう支援を拡充、さらに東電とともに、雇用の場の確保やインフラの整備などに重点を置く方針を決めた。これらの対策で、損害賠償額の見積もりがより明確になったことは、東電の経営再建にとっても重要なポイントだ。
また除染については、これまでの放射性物質汚染対処特措法に基づいてすべての除染費用が東電に請求されることとなっていた仕組みを見直すこととなった。すなわち、既に実施済みまたは現在計画されている除染の費用(約2.5兆円)は東電に請求するものの、今後新たに発生する除染費用については、機構が保有する東電株式の将来の売却益を充てるとともに、中間貯蔵施設費用相当分は、実質的にエネルギー特別会計の中から捻出されることとなった。
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