エネルギー基本計画に原子力をどう位置づけるか
原案の重要ポイントと解決すべき三つの課題


国際環境経済研究所前所長

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原子力のメリットがどう国民に
還元されるかを再認識すべき

 自公政権になって、特に原子力の扱いを中心に、従前の官民一体となった原子力推進政策が戻ってくると期待した向きも多かった。しかし、実際にはそれほど旧に復してはいないのはこれまで述べた通りだ。

 その理由はさまざまであろうが、それほど原子力政策についての政治的な支持が構造的に変化し、希薄化しているからではないだろうか。その原因としては、次のようなことが考えられる。

(1)
原子力発電に反対する世論が長期化・定着化していること。事故後2年半以上が経っても汚染水問題等の解決が不安視されていることもあり、このような世論に変化が見られないこと。そのうえ、選挙の度に原子力政策を争点としようとする候補者が後をたたず、世論の関心も高水準が続いていること。

(2)
1950年代の原子力発電導入当初に存在した原子力技術に対する期待感や先進性のイメージは徐々に薄れつつあったが、東電福島原発事故によって完全に喪失したこと。事故後の情報発信の混乱や不足もあって、国民は、事業者はもちろん国に対しても不信感を抱いていること。

(3)
オイルショックの記憶が風化し、エネルギーの量的確保の必要性の認識が薄れていること。長い経済停滞により「低廉豊富」なエネルギー供給源としての原子力発電の必要性が認識されにくくなっていること。

(4)
こうした世論の変化を受け、2013年7月の参議院議員選挙では自・公が大勝したものの、その原子力政策が支持された訳ではないとの見方があること。

(5)
自民党の新人議員はもちろん、中堅議員においても、原子力黎明期のように、深く原子力政策に関与した経験を持つ政治家が少なくなったこと。また、行政機関のなかでも、原子力政策の必要性について強く認識する時代を経験した世代が去りつつあり、原子力政策との関わりの出発点が東電福島原発事故となる層が増えていくと予想されること。

(6)
連立パートナーの公明党は、再稼働には一定程度の理解を示しているものの、新設・リプレースについては反対しており、原子力よりも再生可能エネルギーを政策の優先課題としていること。

(7)
上記のような原因が複合して、東電福島原発事故以降は、原子力が日本の国益・国力(及び地域振興)にとって「特別に」必要なものとの政治的確認が正式な形ではなされていないこと。

 このように政治的支持が風化してしまっているといってもよい状況のなかで、原子力事業の維持・継続のための政策を採っていくためには、原子力が「日本にとって特別に重要である」ことに関する政治的・行政的再確認が必要となっていると言ってもよいだろう。

 ある種の使命感を感じて原子力事業を推進しようとする政治家・官僚・事業者が少なくなっていくことが懸念される現在、将来にわたって原子力技術や人材を維持していくことのメリットが、国民に対してどういう道筋をたどって還元されていくのかという根本的な問題について、エネルギー基本計画の策定を契機として、今こそ広く議論されるべき時期が来ているのではないだろうか。