エネルギー基本計画に原子力をどう位置づけるか
原案の重要ポイントと解決すべき三つの課題


国際環境経済研究所前所長

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 具体的には、次のような点が重要だ。

(1)
原子力の位置づけとして「エネルギー需給構造を支える基盤となる重要なベース電源」というなかで、審議会の最後の方で挿入された「基盤となる」という表現が残るか、それとも削除又はより弱い表現となるか

(2)
「原発依存度については……可能な限り低減させる。」という表現のなかで「可能な限り」という表現が残るかどうか

(3)
「必要とされる規模を十分に見極めて、その規模を確保する。」という表現は、リプレースや新設を含意するとして、その表現が弱められるかどうか。その理由としての「技術・人材の維持の観点から」という点が維持されるかどうか

(4)
核燃料サイクル政策についての必要性や表現ぶりについて、原案が維持されるかどうか(ここでは省略したが、高速増殖炉原型炉の「もんじゅ」についての取り扱いも焦点の一つ)

原子力維持に原案は不十分
解決すべき三つの課題

 エネルギー政策や地球温暖化対策上の、原子力の必要性に関する筆者の認識については、上記の原案とほぼ同じだ。

 だが、技術や人材を今後とも維持し、原子力事業を継続していくためには、次に述べるような3つの課題を解決することが必須であり、そのためには、より政治的な後押しが必要となることを考えれば、現状の原案に含まれる内容だけでは不十分である。

 しかし、上記のような政治情勢のなかでは、この原案以上に原子力に対するコミットメントを強めることは不可能だろう。仮に、上に掲げた注目の各点で原案よりも後退する形で閣議決定に至るとすれば、今後原子力を持続可能なエネルギー源として維持していくことは極めて困難になると思われる。

 原子力事業を今後とも維持可能としていくために解決すべき三つの課題とは次のとおりだ。

(1)電力システム改革のなかでの原子力の位置づけを明確にする

 電力システム改革の目指すところである市場自由化のなかでは、総括原価主義による料金規制や電力債の一般担保廃止、地域独占の撤廃など、固定資産投資が大きい原子力は特に厳しい状況に置かれることが予想される。

 こうした状況のなかで、原子力は再生可能エネルギーと同様、国策として「公益電源」と位置づけ政策支援の対象にするか、あるいは、火力発電などと同様、市場における「競争電源」と位置づけ、支援策を講じるにしても他電源との関係で市場を歪める程度ができるだけ小さな、市場親和性の高い補完的なものにとどめるべきかを明確化する必要がある。

(2)民間主導でリプレースを進める

 エネルギー政策のなかで原子力を重要なエネルギー源として位置づけるならば、原子力技術や人材を維持していかなくてはならない。そのために必要なことは、技術の改善向上のために必須となる「現場」を確保しなければならない。

 即ち「リプレース(中長期的には新設を含む)」を進める必要があるのだ。そのため、原子力事業に関するさまざまなリスクについて、これをカバーする方策を検討する必要があるが、その文脈において原子力損害賠償法のあり方や原子力事業に関するリスクを国がバックアップする手法を検討することが重要である。

(3)政府主導で原子力バックエンド問題を解決する

 核燃料サイクル政策については、民主党政権下で大きく揺らいだ国内外の信認を早急に回復する必要がある。そのためには、これまで実施主体や意思決定の最終責任の帰属先がバラバラだった原子力バックエンド政策・事業の遂行について、統合的な取り組みを着実に進めていくことが極めて重要である。

 これまでは原子力バックエンド政策を総合的に検討していく役割を担っていた原子力委員会の機能が縮減されるなか、それに代わる組織を政府部内に立ち上げなければ、国の原子力バックエンド政策の企画立案と実施に関する責任の所在が曖昧化されたままとなってしまう。「政策」が成り行きによって行われることとなれば、政府のバックエンド政策についての信頼感が、ますます失われてしまうことになりかねない。

 こうした問題を解決するために、原子力バックエンド政策の企画立案についての司令塔的役割と実施の最終責任を担う組織として、内閣(官房又は府)に原子力バックエンド政策本部のような組織を立ち上げ、さらには、廃炉から最終処分までのそれぞれのバックエンド関連事業進捗のペースや規模を調整する目的をもつ官民合同の組織体を設立することも検討しなければならない。