先進国と途上国に2分することこそ、地球温暖化対策の障壁


国際環境経済研究所主席研究員

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 COP19が例年通り一日延長され、11月23日に終わってから約1ヶ月が過ぎた。政府を筆頭に関係団体、関係者からの報告も一巡して、その全貌がほぼ明らかになってきた。カンクン合意にもとづく自主目標の提出手法が明確になったことや、2020年以降についても、ダーバンプラットホーム作業部会において、先進国のみならず途上国との双方の削減行動が、より整理されて記述されたことから、「それなりの成果のあった、まずまずのCOP」であったと言えるのではないか。

 国連気候変動枠組条約/京都議定書は、経済発展と温室効果ガスの増加という課題を世界中に明らかにした点で、大きな効果があったことは否定できないが、一方で、先進国と途上国の区分をあまりに明確に定義し、先進国のみに厳格な削減義務を負わす仕組みにしてしまったことにより、温室効果ガス排出増加を抑制するという本来の目標への議論をかえって遅らせてしまうという、大きな問題点を抱えてしまった。気候変動枠組条約が発効した1990年第前半ならともかく、「途上国」に分類されている国々から、急速に経済発展を遂げた国々が現れ、今後ともその傾向が続くことがあきらかになっている現在の状況にそぐわなくなっている事実は、すべての関係国が共有すべきことだ。

 経済発展した途上国の雄である中国は、そのCO2排出量が米国を超えたことから、世界から応分の貢献を求められている。中国はそれに強く反論しており、中国は人口が多く国の総排出量は多くなっても、国民一人当たりのCO2排出量は少なく、先進国並みの排出量になるまでは経済発展が優先する、との意見をしばしば主張している。現状を確認するため、国民一人当たりのCO2排出量の推移を左図にまとめた。データの出所はIEAのWEOであり、1990年から、もっとも新しい2011年までのデータを、「先進国」グループから米、日、独、英、仏を、「途上国」グループから、中、韓、印を、また世界平均、OECDヨーロッパ平均を示している。まず明らかなことは、「先進国」各国が減少傾向にあり、「途上国」が増加傾向にあることであるが、経済発展の過程にある各国としては当然ともいえよう。2011年で比較すると中国は米国と比べると確かに3倍程度の大きな差がある。しかし、製造業の比率が高いドイツ、日本とはまだ差があるものの、世界平均はもとより、原子力発電を主要電源としていて低炭素型の電力供給国であるフランスを2010年にすでに超えており、また、英国、OECDヨーロッパ平均に肉薄している。

 また、図には米国、日本、中国、インドについては、各国がカンクン合意に基づいて登録している自国の目標から推定した2020年推算値を併せて示している。この図を見ると、中国の目標は現状の国民一人あたりCO2排出量増加傾向の延長線上にあることがわかり、このままの傾向であれば今年2013年には英国、OECDヨーロッパ平均を逆転し、また、もしドイツが目標としている1990年比40%削減を達成すれば、2020年までにこれも超える可能性が高い。したがって、中国の国民一人当たりCO2排出量は、先進国並みになっていると考えるほうが自然である。
 また、図には「途上国」とされている韓国のデータも示すが、米国にも迫る勢いであり、CO2排出という観点からは、先進国と途上国という分類がもはや意味をなさなくなっていることは明らかである。一方、相当な経済活動の拡大が予想されているインドでも、推算値が示すように2010年においてもほかの各国よりもはるかに少ない排出量にとどまるものと推算される。「途上国」には脆弱国、後発開発途上国に分類されている多くの国も含まれており、各国の状況には大きなばらつきがある。ひとまとめにして検討することができなくなっているのだ。

 COP19では、当然ながら途上国は、全体としては先進国と途上国の区分を崩してはならないという主張を繰り返したが、実際にはおかれた状況と考え方に共通性のあるいくつかのグループに分かれて、意見がまとめられたようである。また、終盤には、CO2大量排出国であるにもかかわらず、交渉の議論を遅らせようとしているとして、中国とインドが、すっかり有名になった例の「化石賞」を初めて受賞するという、歴史的な出来事もあった。少しずつ、先進国と途上国という単純な区分に拘泥することはかえって具体的対策の検討を遅らせるのではないかという見方が勢力を拡大してきたようである。この動きがさらに加速され、公式の交渉の主流になることこそ、真に実効あるCOPとするために不可欠な条件である。中国の前向きな対応がカギを握っていることはだれの目にも明らかである。

 日本は2020年目標を2005年比暫定的に -3.8%とすることを表明した。一人当たりに直すと図からわかるように足元からほとんど横ばいであり、かの先進諸国に比べると見劣りはする。しかしながら、この目標は日本のエネルギー課題の実情を知る人にとっては、極めて野心的で非常に大きな努力の必要な目標数値であることは自明であり、原発ゼロを前提とすれば、決して見劣りのする数値ではない。Wall Street Journal が述べているように、「あらたな削減目標は日本が世界最悪の排出国になるということではない。日本は、地球温暖化の不確実性と経済のバランスを賢明に取ることのできる国である」という冷静な評価もある。日本としては、国内でのCO2排出削減努力に注力することはもちろん重要だが、日本の目標の客観的説明と、主要国との比較における位置づけを、国内外両方に広く紹介して理解を得る努力も同じくらい重要である。 

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