オバマ政権の環境・エネルギー政策(その13)

核不拡散問題へのオバマ大統領の思い


環境政策アナリスト

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 オバマ大統領はこの演説の中で、原子力の平和利用はあらゆる国家の権利であるとして、核不拡散も同時に解決できる新たな枠組みの構築を求めることを訴え、その上で最終的には核兵器の撲滅を目指すとしている。

オバマ大統領プラハ演説

 具体的には開発途上国の原子力の平和利用を可能とするために、国際燃料バンクなどを創設し、新しい枠組みを作らねばならないとしている。2009年9月に開催された国連安全保障理事会で、オバマ大統領は「核兵器なき世界」を目指す内容の決議を提案、全会一致で採択された。この決議でも核不拡散と核軍縮に加え、原子力の平和利用の権利について言及している。
 この論点については、オバマ大統領は大統領選挙期間中から繰り返し主張しているものだ。『アームズ・コントロール・トゥデイ』によれば、これに加えて、米国の核兵器ドクトリンの包括的レビューを行うことを求めている。
 さらにロシアとの間で核兵器削減を進めるため、第一次戦略兵器削減条約(STARTⅠ)のように、削減状況の査察・監視が盛り込まれるようなアプローチを復活させたいとしている。これについては2009年7月6日、モスクワで行われた米露首脳会談で、後継条約の大枠と2009年内の締結を目指す方針を確認した。また米露だけでなく、中国、フランス、英国という核保有国の間で、核保有能力の透明性をどのように高めるか、ハイレベルな対話を開始するなどと述べている。
 プラハ演説でも述べているが、以前から包括的核実験禁止条約(CTBT)発効や核保有国による軍縮を推進することをオバマ大統領は主張している。(CTBTについてはクリントン政権時代に大統領が署名したものの、共和党主導の当時の上院では批准されず、現在でもそのままとなっている。現在もその地合にない。)
 また、米露二国間の米国支援としては核防護措置などのために10億ドルファンドの額を引き上げ、多国間の米国措置としては、ロシアおよび他の国と協働して核物質ジャック防止のため包括的多国間スタンダードを策定・実施すると演説では述べている。核物質の盗難・流用・拡散を防止するために各国の能力を向上させること、すなわち大量破壊兵器の核拡散抑止のための安全保障理事会決議第1540号の支持を確実にするための国際的・財政的支援を強化すると述べている。
 このように、核不拡散の徹底と核軍縮、原子力の平和利用を同時に進めるため、オバマ大統領意気込みを示した。現在イラン新大統領誕生のもとその動きの行方は見定めにくくはなっているが、中東での各不拡散政策を定着させようとしていることに変わりはない。2014年から具体化させなければならないオバマ大統領の「legacy」(「政治的遺産」)作りの材料のひとつとするのかもしれない。

原子力等への対応に関する政治動静

 原子力政策について、現在の議会の動静をみておきたい。
 下院においては、2008年、民主党中道派であるエネルギー・商業委員会委員長のディンゲル氏と、エネルギー・大気環境小委員長のバウチャー議員が追われ、反原子力を標榜するヘンリー・ワックスマン議員、エドワード・マーキー議員に取って代わられた。ワックスマン議員は民主党でも左派に属しており、このことから同じ左派であるナンシー・ペロシ議長の下院での指導力が一層増すものとなった。その後、2010年選挙で共和党242議席、民主党193議席で共和党が勝利し、ペロシ議長からべーナー議長に代わった。2012年選挙では共和党が多少票を減らしたものの、234議席、民主党は201議席でベーナー議長が続投した。この結果下院は原子力政策には前向きである。
 一方、上院においては、下院と異なり、原子力支援について前向きな議員と慎重な議員が拮抗している。2008年上院選挙で、2005年エネルギー政策法の成立に尽力したエネルギー・天然資源委員会委員長を努めた原子力推進派主導者であった共和党ドメニチ議員が引退し、後に同委員会委員長を務め、民主党だが、原子力に積極的だったビンガマン議員も2012年選挙で引退した。後を継いだ民主党ワイデン議員の動向は注視する必要がある。
 ところで上院においては原子力支援に共和党・民主党の違いは少ない。上院議員は党の拘束よりも各人の判断が重視されるからだ。もともと独立以前に大陸会議といわれたものが上院の前身であり、議員は州の代表者からなっている。上院議員は州の有権者に耳を傾けなければならない。州はそれぞれ、農業が中心の州、重工業が産業の中心を占める州、エネルギーの生産で経済が支えられている州などいろいろだ。各議員の投票行動は、出身州の産業構造から起因する違いの方が、党派の違いより大きい。さらに民主党は共和党よりも、さらにその傾向が強いといわれる。
 さらに、ニューイングランドの伝統的民主党に対して、カーターを生んだ南部の民主党、ルイジアナ州などエネルギー生産州の民主党もそれぞれ伝統的にカラーが違うことも理解を複雑にしている。気候変動問題などは同じ民主党でも、議員によって意見が大きく異なるのもそこに起因している。また、上院の場合、議長をそもそも議会に席をもたない副大統領が務めることになっており、党内拘束を強化することはできない仕組みになっている。
 それに対して下院は党の拘束は強い。1990年代のニュート・ギングリッチ議長のときのように多数党が強い影響力を行使できる。現時点でアメリカの上下院は多数党が異なっている。こうした状況を「ねじれ」という言葉が便宜的に使われるが、日本で言う「ねじれ」とは異なる。それぞれの院が別々の主張をすることが前提になっている米国においては「ねじれ」という言葉はふさわしくなく、仮にねじれていても、いなくてもそれぞれの院はそもそも独立しているものと理解する必要がある。
 2012年大統領選挙と同時に行われた議会選挙は2010年中間選挙と比べると両議会に大きな変化を生み出さなかった。つまりオバマ大統領第二期は第一期とは争点においてそう異なるものとはならないということがいえそうである。原子力問題においても下院・上院は少なくても次の中間選挙までは大きな政策的変更はないとみてよい。

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