COP19 参戦記②

-産業界の関与強化がカギ-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 こうした高い期待と関心を受け、昨年に続いて各国産業団体の共催による「ビジネスダイアローグ」が開催された。国連気候変動枠組条約事務局、日本、ポーランド政府の高官、研究者や各国産業界の代表を招いて11月17日に行われた「ワルシャワ・ビジネスダイアローグ」では、技術や資金を持つ産業界の実態を反映した声をいかに国連気候変動枠組み条約交渉に反映し、関与を強化していくかについて話し合われた。予定された4時間を超えて行われた密度の濃いプレゼンテーション、質疑応答のうち、いくつか印象に残った主張をご紹介する。
 1つ目は、企業は、期待されるリターンと、そのプロジェクト実施期間全般における技術・市場・規制など様々なリスクとの見合いで投資決定を行うのであり、温室効果ガスの排出に価格をつけてもそれが投資を促すことにはつながらないのではないとの声である。これには既に排出権取引市場を立ち上げ運営している欧州を中心に反対する意見も多くあるであろうが、クレジット制度の効用と限界をよく踏まえる必要があるとの指摘には説得力があった。
 2つ目は、国連交渉を実効的に進めるためには、各国政府だけでなく地方政府に働きかけることも重要であるとの指摘である。例えば米国連邦政府を巻き込むことは難しくとも、温暖化対策に熱心な一部の州政府を巻き込むことは容易であろうというのはその通りで、「地方の時代」は日本にとどまらないのであろう。
 3つ目は、日本の提唱する「二国間クレジット制度」に対する期待と懸念である。日本の環境技術を途上国に導入し、その技術が削減した温室効果ガスをクレジットとして日本が引き取り、わが国の削減分としてカウントするというコンセプトに基づくこの制度は、数年前からの日本政府の地道な取り組みによって国際社会で認知されつつある。当初日本政府は「Bilateral Offset Crediting Mechanism(二国間オフセット・クレジット制度)」という名称で提唱していたが、現在は「Japan Crediting Mechanism」とわが国の名を冠した名称に変更され、クリーン開発メカニズム(CDM)等の京都メカニズムでは、その恩恵に預かることの出来なかった途上国から高い関心を得ている。パートナーとなる途上国の実情に合わせ、具体的な技術の移転を進めようというこの制度のコンセプトは非常に優れており、途上国関係者の期待が高いことも頷ける。しかし日本が引き取るクレジットの資金は誰がどのように拠出するのかという、まさにこの制度の根本に係る議論が実はこれからなのだ。筆者は昨秋、アジア太平洋研究所のプロジェクトに参加し、日本の二国間クレジット制度全般に対する考察と特にベトナム政府関係者からの期待についてまとめたが、国連気候変動交渉の場で途上国関係者からの期待が高いことを実感するにつけ、資金拠出という「肝」を早急に議論し、明確にする必要性を感じた。

日本産業界の貢献について説明する
経団連環境安全委員会国際環境戦略ワーキンググループ手塚座長