私的京都議定書始末記(その21)

-AWG-KPとはどんな場か(1)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 AWG-KPでは5つのコンタクトグループが設置されていたが、それぞれのテーマは(1)附属書Ⅰ国の削減目標、(2)京都メカニズム、(3)温暖化係数、温室効果ガスの範囲等のその他事項、(4)LULUCF(土地利用、土地利用変化、森林)(5)先進国の温暖化対策が途上国にもたらす潜在的影響であった。このうち、(3)は各国の吸収源の専門家が森林や土地利用変化に基づく吸収量をどう計算するかという非常に技術的、専門的な場であり、林野庁がもっぱら交渉にあたっていた。(5)は産油国が強く主張して設置された場であり、先進国が温暖化対策をとると化石燃料輸出に依存する産油国がネガティブな影響を受ける、その影響をどう最小化し、ダメージをどう補償するのかという議論である。このおよそナンセンスな議論には先進国が一丸となって反対しており、EUが前面に立って戦っていた。このため、私がもっぱら出陣して戦ったのは(1)附属書Ⅰ国の削減目標と(2)京都メカニズムだった。

 附属書Ⅰ国の削減目標に関するコンタクトグループは、通称、「ナンバーグループ」といい、文字通り、附属書Ⅰ国全体での削減幅と各附属書Ⅰ国の第2約束期間の目標値という「数字」を議論する場であり、AWG-KPの中で途上国が最も重視するテーマであった。2週間のAWGのセッションの間でAWG-KPの開会プレナリー(全体会合)、中途段階のストックテーキングプレナリー、閉会プレナリーを除けば、1スロット1時間半のコンタクトグループが26回程度開催されるが、途上国が「AWG-KPの最大のミッションは附属書Ⅰ国の削減目標の決定である。したがって交渉時間の少なくとも半分は数字の議論に割くべきである」と強硬に主張した結果、13スロット程度がナンバーの議論に充てられた。冒頭述べた「堂々巡りの議論」が延々と続けられたのはこの場であり、2009年を通じて共同議長を務めたグレナダのレオン・チャールズ氏とオーストリアのゲルトラウト・ヴォランスキー女史は本当にご苦労なことであったと思う。

「ナンバーグループ」のレオン・チャールズ(中央)、
ゲルトラウト・ヴォランスキー(右端)共同議長

 京都メカニズムのコンタクトグループは排出量取引、JI、CDMの3つのメカニズムの運用規則の改善を議論する場であり、中国、インド、ブラジル、メキシコ等、一部の国に集中しているCDMをLDC等にどう広げていくか、CDMの対象に原子力やCCSを加えるのか、EUが提案しているセクター別クレジット制度をどうするか等が主なイシューである。AWG-KP副議長のドブランド氏が議長として相変わらず、誠実かつ効率のよい議事運営を行っていた。

 それぞれのコンタクトグループで種々の議論があるのだが、AWG-KPの特色を最も体現しているのは、やはり「ナンバーグループ」であり、次回はその主要な登場人物と典型的な議論を紹介したい。

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