炭素繊維強化熱可塑性プラスチックス
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が9月3日に発表したプレスレリースを読んだ時の刺激と興奮は大きかった。その内容は、東京大学や炭素繊維メーカー、樹脂メーカー、炭素樹脂メーカーが協力して、加熱すると成型しやすくなる熱可塑性樹脂を用いた、全く新しい「炭素繊維強化熱可塑性プラスチックス(CFRTP)」の開発に成功したというものだった。
炭素繊維で強化した樹脂を利用した製品は、その軽さと強靱さを応用したゴルフクラブのシャフトから航空機のボディーまで多方面に利用されている。しかし、その素材である樹脂は熱硬化性のもので、成型したものを高温炉に入れて固めるというプロセスが必要であるため、流れ作業で製造する工程には馴染まなかったし、生産に必要なエネルギー消費も大きかった。炭素繊維強化樹脂を自動車の外部構造などへ利用ができれば、大幅に重量を引き下げることができるのだが、量産車に使われるようにはならなかったのもそのためである。
今回開発に成功した熱可塑性樹脂を利用すれば、炭素樹脂の平板を加熱して金型などでスタンピング成型し、その後冷やしてやれば部品を製造できる。自動車の外殻構造などに利用するには、それだけでは足らず、組立に必要な接合技術も必要となる。発表によれば、熱板融着・振動融着・超音波融着等、接合面を重ね合わせて加熱加圧する方法を見出したとのことだから、自動車用鋼板加工と同じ工程に組み込むことが可能になると想定できる。この技術の利用は自動車に留まらず、航空機、船舶、鉄道車両などにも広く応用できて軽量化(乗用車の場合で30%という)が実現し、運輸部門で消費されるエネルギーの量を大幅に減らすことができる筈だ。また、殆どの素材がリサイクルできるため、環境負荷やコストを大きく低減させることにもつながる。
高い強度と非常に軽いという特性を有する炭素繊維は、世界の生産量の7割以上を日系企業が独占している先進素材だ。今回の新技術が遠からず実用化されて、世界の量産車などに利用されるのが実現するとすれば、世界の自動車が消費するエネルギーの大幅削減に日本が大きく貢献できることになる。自動車にしろ航空機にしろ、乗客や貨物ではなく、重量の大きな本体構造を移動させるのに消費されるエネルギーの方が多いのだから、この技術の地球環境改善に向けた貢献度は極めて大きいと言える。量産製品への応用がいつ頃になるか、コストが現在の方式に比べてどれほどになりそうか、この発表資料は述べていないが、大きな期待を持って次のステップが出現するのを楽しみにして待ちたいと思う。素材コストが多少高くても、量産工程に効果的な応用ができれば十分コスト競争力もあるだろう。世界に通用し、世界を制覇する技術に育ったほしいものだ。
NEDOのプレスレリース:
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100221.html?from=nedomail