オバマ政権の環境・エネルギー政策(その4)

景気対策法における環境・エネルギー投資


環境政策アナリスト

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 オバマ氏は大統領選直後から、議会に対し、3000億ドル規模の景気を刺激する立法措置を要請した。エネルギー面でオバマ大統領の要請したのは、再生可能エネルギーのむこう3年間の供給量倍増、再生可能エネルギーのための3000マイル(4800キロメートル)以上の送配電網建設、連邦建物の75%以上の省エネ、250万軒以上の断熱強化であった。

 下院は、オバマ大統領の要請を受けて2009年1月28日、8190億ドルの景気対策法を採択、上院では2月10日に8380億ドルの上院案を採択した。両院協議会が2月13日に開かれ、最終的に2月17日に7870億ドル規模の米国景気対策法が成立した。
 景気対策法で認められた7870億ドルの予算のうち、財政出動を伴うものが4990億ドル、減税分は2880億ドル。財政出動分のうちエネルギー・環境投資が全体の5%程度、また、減税では再生可能エネルギー投資促進が全体の3%程度を占めている。

景気対策法で増枠が認められなかった原子力債務保証

 2009年の米国景気対策法は、2008年の歳出法の補正予算の位置づけとなっている。
 2008年の歳出法には、2005年エネルギー政策法で導入が決定した原子力債務保証プログラムについて、185億ドルの原子力債務保証額が決定された。これは、新規原子力発電所立地を推進するため、関連する債務が生じた場合、連邦政府が保証するもの。このプログラムにより、米国において原子力計画は急速に動きだしており、その後、最大、枠の6倍以上になる1220億ドルの申請が行われた。
 このため景気対策法でも、原子力債務保証額の追加を盛り込もうという動きが、主として共和党の議員の間で活発化していた。
 下院のエネルギー・商業委員会では、共和党ミシガン州出身のフレッド・アプトン議員が「ゼロエミッションエネルギーシステムズ」という表現をこの法案の中に加え、そこで原子力に対する債務保証を盛り込むことを提案した。しかしこの提案は21対33で否決されたため、下院案の中には原子力の債務保証枠の追加条項はなくなった。
 上院では、共和党でユタ州出身のロバート・ベネット議員が500億ドルの原子力債務保証額追加を法案に盛り込んだ。これについては2月10日に成立した上院の最終案にも残り、結果的に500億ドル枠は承認された。しかし、2月13日の両院協議会で、上院案の500億ドルの枠を削除し、合意してしまった。
 もともとオバマ大統領が議会に要請した景気対策法の総額は3000億ドルだった。しかし、成立した法案の総計は7870億ドルであったように、想定以上に突出した規模になった中で、審議の経過で削減が求められ、原子力債務保証の追加分は、削減する項目の優先順位の高いほうに盛り込まれてしまった。その理由は、緊急に法案成立が求められている中で、法案成立を優先し、党派の争いは回避しなければいけないという危機感を両党が共有していたことにほかならない。
 このため法案に盛り込まれた債務保証のくくりとしては、結果的には再生可能エネルギー開発および送電線建設のための60億ドルの増額のみで終わった。あえて原子力関連を探しても、軍事利用を含む放射性廃棄物の管理があるのみで、民生用原子力への支援の増額はない。

スマートグリッド推進への強い意志

 オバマ大統領は2009年1月20日の就任演説で、「私たちを一つに結びつける道路や橋、送電網を整備する」と述べた。2月の施政方針演説でも、期限は特定しなかったものの、新エネルギーをもたらす何千マイルもの送電線をまもなく敷設すると宣言している。さらに米国景気対策法でもスマートグリッドに110億ドルの投資、スマートグリッドファンドに45億ドルに予算を割り振った。さらに、西部地域電力公社プロジェクトに33億ドル、ボンネビル電力局プログラムに33億ドルを当てた。
 2009年予算教書においてはスマートグリッド技術、送電線拡張、増容量などに加えて、エネルギー効率の信頼性を向上するための電力貯蔵、サイバーセキュリティーなどの送電線設備の近代化に資する技術の投資を求めている。これまで2005年エネルギー政策法や、2007年エネルギー独立・安全保障法などで求められていたものを、予算面から支援する形となっている。
 スマートグリッドについては、米国でもまだ定義が十分確立されているとはいえず、電力会社もそれぞれの置かれている固有の経営課題をベースに進めているというのが実情のようだ。主な電力会社の取り組みを見てみると、例えばエクセルエナジー(コロラド州)やPG&E(カリフォルニア州)は需要管理、PNM(ニューメキシコ州)は住宅用ソーラー導入のため、ファーストエナジー(中西部数州)はHVAC(喚気空調設備)対応のため、コン・エジソン(ニューヨーク州)は分散電源導入のため、AEP(オハイオ州)は電力貯蔵管理のため、という具合である。電力会社の団体であるエジソン電気協会(EEI)の2009年総会で関係者に聴取すると、スマートメーターを導入し双方向通信を実現することがスマートグリッドの鍵という考え方が多いように見受けられたが、その後も引き続き課題として立ちはだかっている。
 一方、同会議で、スマートグリッドの課題として、連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、需要反応度の分析について触れ、特に家庭用の需要は価格弾力性について分析が必要であることに言及した。また会場からの議論ではサイバーセキュリティー問題に言及する声が多かった。需要側が系統の情報のやりとりに参加するので、発電所などに対するセキュリティーに影響があるかどうかが依然多くの関心を集めている。