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私的京都議定書始末記(その15)

-G8+3エネルギー大臣会合(1)-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授


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大変だった準備プロセス

 大臣会合のサブは共同声明に集約される。議長国としては共同声明のドラフト、審議、採択に至る一連のプロセスにつき、周到な準備が必要であった。このため、バリから帰国直後、3つのエネルギー大臣会合に参加する各国に対し、各エネルギー大臣会合の議題案、共同声明に盛り込む要素の箇条書きを送ると共に、共同声明のとりまとめに向け、1月に東京で、3月にパリで、更に大臣会合直前の6月に東京で合計3回の準備会合を行うという段取りも提示した。①第1回準備会合ではアジェンダと共同声明の要素を提示し、②第2回会合までに第一次ドラフトを作成し、第2回会合で議論する、③第2回会合直後に第二次ドラフトを作成し、書面コメントを受け付けて第三次ドラフトを配布し、第3回会合でline by line のドラフティング交渉を行うというものである。

 通常、マルチのプロセスに参加する場合、自国の立場を主張し、そのコメントが共同声明に反映されることを確保すれば済むが、議長国ともなるとそうはいかない。準備会合の議長を務め、共同声明のドラフトを提示し、各国のコメントを取り入れつつ、議長国として出したいメッセージも確保していかねばならない。何より、マルチの準備会合の議長を務めるのは初めての経験であり、これは非常に骨の折れる、根気のいる作業であった。

 まず、各国に適切なコンタクトポイントを確保せねばならない。ロシアを除くG8諸国については、IEAプロセスでのネットワークをほぼそのまま活用できた。ロシアについては、燃料エネルギー省、外務省と相談した上で、燃料エネルギー省の国際担当部局を窓口にしてもらった。中国についてはAPECや東アジアサミットプロセスの窓口となっていた国家発展改革委員会が窓口となった。苦労したのがインドである。他国と異なり、インドでは石油・天然ガス省、石炭省、電力省、非在来型エネルギー省等、エネルギー当局が複数省庁に分かれており、エネルギー全般を取り扱う大臣会合の適切な窓口が明確でなかった。結局、石油・天然ガス省の課長クラスが担当窓口となったが、彼がどの程度、他省庁のコメントをとりまとめてくれるかは未知数であった。ちなみに我々が特に重視していた省エネは電力省の担当であった。

 2008年1月に第1回準備会合を経産省内で行い、会合のアジェンダ、共同声明のスケルトンについて議論した。初回顔合わせであり、共同声明本体の議論に入っていないこともあって、会議自体は和気藹々と進んだ。舞台裏で苦労したのはIPEECについて米国の賛同を得ることだった。EU発のアイデアであるが故に、米国はこれが省エネ分野の京都議定書のようなものになることを懸念していたのであろう。まず先進国で歩調を合わせなければ中国、インドを取り込むことはできない。このため、準備会合の前日に、日、米、欧州委員会の三者で会合を持ち、IPEECは米国が嫌がるような拘束力のある枠組みではないこと、国際的な省エネ協力に途上国を巻き込む必要があり、そのためのツールとしてボトムアップのパートナーシップが有益であることを日欧双方から説明し、米国も検討してくれることになった。

 第1回会合を踏まえ、3つの閣僚会合の共同声明案を作成し、2月初めに各国に配布した。共同声明案は3月の第2回準備会合で議論され、種々のコメントはあったものの、大筋のラインはこれでよいという感じであった。IPEECに米国の支持が得られたことも成果であった。だが糠喜びはできない。気になるのは中国、インドの対応であったが、中国は北京からの出席がなく、現地大使館レベルの対応であった。インドは石油天然ガス省からの出席者がコメントしたが、驚くほど穏健なコメントだった。だが、これがインドの各省のコメントを代表するものかどうかは未知数だった。

 予想されたことではあるが、特に中国、インドとの関係で、計3回の準備会合で全てを決着することは難しいことが明らかだった。大臣会合直前の第3回準備会合で、ちゃぶ台をひっくり返すような議論が生じてはどうしようもない。最終準備会合までの間に中国、インドに乗り込んで直に話をしなければならないと決意した。

中国、インドとの直談判

 第2回準備会合を終え、第二次ドラフトを配布すると、各国もだんだん本気になってきて種々のコメントを出してきた。ある程度気心の知れたG8諸国、韓国からのコメントは、何らかの形で改訂ドラフトに反映可能であったが、中国からのコメントはIPEECやセクター別アプローチに関するパラグラフを前面削除せよというもので、往生した。削除理由が説明されていないため、どの部分が問題なのかもわからない。インドのコメントは比較的穏健なものであったが、相変わらず、インド政府エネルギー政策当局の総意なのか、石油天然ガス省のコメントなのかがわからなかった。このままの状態で大臣会合直前の第三回準備会合に臨むにはリスクが大きかった。

 このため、第三回準備会合の前に中国とインドに乗り込んで生の声を聞くこととした。中国では国家発展改革委員会の省エネ担当局長と、インドでは電力省の担当局長、エネルギー効率局の事務局長と意見交換を行った。彼らの意見を要約すれば、IPEECについては、それが自分たちにとってどの程度のメリットがあるものかわからない、セクター別アプローチについては、それがある種の拘束力を持ち、自分たちへの手かせ、足かせになるのではないかということである。これに対し、IPEECはボトムアップのパートナーシップであり、IPEECの下で行われる協力プログラムは各国の関心に応じて自由に参加すれば良いものであること、セクター別アプローチは、各国の実情に応じてセクター別の省エネ目標を設定し、省エネパフォーマンスの国際指標開発のためのデータ協力をしようというものであり、世界一律の基準を設定して各国を縛るような性格のものではない、と懸命に説明した。両者ともそれで納得してくれたわけではなかったが、少なくとも相手の肉声が聞けた意義は大きかった。彼らの懸念も念頭におきつつ、第三次ドラフトを作成し、各国に配布した。

 最後の調整局面は6月4-5日に東京で行う第三次準備会合である。一連の大臣会合は6月7-8日で、最早、後がない。この場で何としてでも事務方ドラフトをセットせねばならない。その中で特に気になったのがインドの出方であった。これまでインドは石油・天然ガス省のコンタクトポイントが準備会合に出席し、コメントをしてきたが、第三次会合には電力ガス省とエネルギー効率局が参加するという。省エネ担当の真打登場というわけだ。このため、今次会合に出席するアジェイ・マトウール・エネルギー効率局長を前日の晩、宿泊先のホテルに訪ね、ドラフト内容について2時間近く談じ込んだ。マトウール局長は世銀勤務経験もあり、ガチガチの職業交渉官ではない。その結果、第三次ドラフトのセクター別アプローチ、IPEEC関連のパラグラフを若干修正すれば、インドの了解が得られそうな感触を得た。翌日の会合に希望の光が見えてきたように思えた。

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