太陽熱の効率的利用
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
再生可能エネルギーを利用して発電された電力を高く買い取る固定価格買取制度(フィードイン・タリフ)が日本で昨年から始まり、太陽光発電に続いて、地球温暖化ガスを発生しない各種の発電設備が増加しつつあることはこれまでに述べた。その他にも、電力の効率的利用を促進する各種助成が政府の手によって準備されてもいる。廃熱の有効利用や、住宅の断熱なども国の補助対象になってきた。その中でどうも肯けないのが、太陽熱利用の温水器に対する助成が国のレベルでは行われていないことだ。市町村段階では、東京都を筆頭に各地で助成策が行われている。しかし、国の助成策の対象になっていないこともあってのことではないかと思われるのが、太陽熱温水器の設置数が一向に増えないという現実だ。
ソーラーシステム振興協会のデータに拠れば、太陽熱利用機器販売実績が、今世紀に入ってからも横這いとなっている。
http://www.ssda.or.jp/energy/result.html
この販売台数の大部分は太陽熱温水器であるが、太陽光発電に比べて太陽光エネルギーの変換効率もはるかに高いし、設備コストは逆にかなり安く、環境負荷の引き下げ効果が高いものがどうして普及しないのだろうか。発電に比べると何となくダサい感じがするからだろうか。この問題を議論している時に、温水器については、助成しなくても短期間に初期コストを回収することができるほどになっているから国の施策対象にならないのだという意見もあった。だとすれば、そのような経済性に関する情報が詳細に提供されるべきだろう。熱の効率的利用を促進する国の制度について、英国が導入しようとしている再生可能熱利用に対する補助制度が参考になる。太陽熱温水器、バイオマスボイラー、ヒートポンプを利用する住宅に再生可能熱奨励金(RHI: Renewable Heat Incentive)が、熱の消費量に応じて支払われるのが具体化されようとしているのだ。RHIの制度そのものは2009年に制定されていたのだが、この7月にどれだけ支払われるかの具体案が発表されたのである。
家庭用向けのRHIが対象にするのは、空気を熱源とするヒートポンプ給湯暖房器、地中熱と水を熱源とするヒートポンプ、バイオマスのみを使うボイラーと、ボイラー付きのバイオマスペレット・ストーブ、そして、平板ないし真空管式の太陽熱パネルである。その補助額は、空気熱源のヒートポンプに対する7.3ペンス/kWh、バイオマスボイラーには12.2ペンス/kWh、地中熱ヒートポンプには18.8ペンス/kWh、太陽熱パネルの19.2ペンス/kWh(1ポンド150円として、28.8円)のように、機器別に具体的な額が示されている。DECC(エネルギー環境省)は、太陽熱利用機器に対する額はもっと高くなる可能性もあるとしている。最終的に額が決定するのはこの秋となるようだ。
この助成金は四半期毎に7年間支払われる。この額の算定は、20年間の再生可能熱発生に予想されるコストを反映したものである。また、殆どのケースで、住宅の熱需要予測に基づいて支払補助総額が決まるようだ。さらに、DECCは、ヒートポンプのモニター設備を取り付けるところには年に230ポンド、バイオマス・ボイラーには200ポンドを追加で支払うことにする意向である。非家庭用については2011年に価格設定がなされたが、市場を刺激する額ではなかったために、来春に具体的な改訂価格が示されることになっている。この熱消費に対応した補助金は2020年に給湯・暖房エネルギーの12%を再生可能エネルギーからにするという英国政府の目標を達成するための予算から支出される。一部には予算管理とのすりあわせの難しさが指摘されているようだ。kWh単価は毎年見直されることになっている。
熱消費量に対して補助を出すにあたっての課題は、どのように熱を計量するかである。熱の正確な計量は難しいからだ。英国のこの制度の場合、建物や設備の規模や断熱レベルの基準を上回ることを条件にしたうえで、世帯やプロジェクト単位で熱消費量を推計するようだが、住宅を対象とする場合、この方式は建物全体を暖房することが珍しい日本では適用しにくいだろう。しかし、日本でもこのような政府施策を、知恵を絞って打ち出してほしいものだ。
いま日本が直面しているのはいかに需要ピーク時の節電を効果的に行うかである。しかし少し時間軸を長くすれば、地球温暖化対応、そして、化石燃料の輸入量を減らす有力な手段として太陽熱の利用はもっと促進されてしかるべきではないだろうか。