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感情で決まる日本のエネルギー政策と政治で決まるドイツのエネルギー政策


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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 6月末に世界最古のビジネススクールESCP Europeパリ校にて、シンガポール国立大学とパリ・アジアセンター共催のエネルギー・環境政策シンポジウムが開催された。中国、インド、日本、シンガポール、欧州の研究者が集まり、各国のエネルギー・環境政策を議論する有益な会合だった。
 シンポジウムには欧州委員会、欧州のNPOからもゲストを招き議論を行ったが、震災後の日本のエネルギー・環境政策の議論になった際に各国の研究者から出た多くの意見は「日本はエネルギー政策を感情で決めている。そんな国は世界にはない」というものだった。これに対し、欧州の環境NPOのゲストから「ドイツの脱原発政策も世論という感情で決まったのではないか」との疑問が出された。
 ドイツ政策の研究者でもあるESCP Europeの学長から次のコメントがあった。「ドイツは世論で政策を決めたわけではない。確かに脱原発の声はあったが、それが政策決定の理由ではない。政策は政治的なものだ」。学長の説明では、当時ドイツでは与野党の支持率が30%ずつで拮抗していた。安定的な政権運営には脱原発を主張する緑の党などの協力が不可欠であり、そのために脱原発政策を決定したという。感情ではなく政治が理由との説明だった。ちなみに、9月22日に総選挙を控えるドイツの現在の与野党の支持率は、キリスト教民主・社会同盟40%、連立相手の自由民主党は5%、野党社会民主党25%だ。13%の緑の党と8%の左派党の動静がやはりかなり影響しそうだ。学長によると今も当時と政治状況は大きく違っていないということだった。
 感情が決めても政治が決めても同じではないかと思う方もおられるかもしれないが、そうではない。大きな違いがある。エネルギー政策には4要素がある。エネルギー安全保障、経済性、環境問題、安全性だ。まともな政党であれば、この4要素を考え、どこに重点を置くかで政策が決まる。ドイツの緑の党などは安全性を最重視したということだろう。ただ、与党のキリスト教民主・社会同盟と自由民主党は、安全保障、経済性、環境問題も考えたから、全ての原発停止には踏み切らず、2022年脱原発のシナリオにしたということだろう。いま、再生可能エネルギーの導入増による電気料金値上がりの問題で、政権は経済性の観点からエネルギー政策に頭を悩ましているが、その話はまたの機会にしたい。
 日本の政策はどう決まったのだろうか。4要素について十分な議論、検討はなされていない。「国民的議論」と銘打った討論型世論調査を実施し、国民の意見を聞き決めたということだ。この討論型世論調査は実は誘導型世論調査に過ぎなかったことは、以前本サイトで指摘した通りだ。そもそも国の安全保障に係る問題について世論で政策を決めるのであれば、政治家は不要だ。
 しかし、これも当時政策決定の中枢にいた政治家にとっては当たり前のプロセスだったのかもしれない。当時の枝野経済産業大臣は「原発事故は文明のひずみがもたらしたものだ」と、その著書のなかで主張している。事故を文明論で考えている人物が、エネルギー政策を考える際に、安全保障、経済性などに考えが及ぶとはとても思えない。結局、世論、感情論で政策を決めるしかないのだろう。各国の政策研究者からすると「感情でエネルギー政策を決めた稀有な国。政治家は何をしていたのか」との評価になる。各国の研究者は日本の政策が普通の過程で決定されることを切に願っていた。温暖化問題、化石燃料消費増などは日本以外の多くの国にも影響を及ぼすから、日本の政策がまともな議論の結果決まることを願うのは当然のことだろう。



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