第5回 大阪ガス NEXT21
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
こうした外部とのつながりを創出する工夫は、子供が自立した後の団塊世代夫婦を対象とした「しなやかな家」にも盛り込まれており、お料理上手の奥様が料理教室を開催しやすいよう、広いキッチンと食事室、そして家族の玄関とは別にキッチンそばに出入り口が設けられています。
こうして各住戸には、設計者のこだわりと遊び心、想像力と、最新の技術の粋が尽くされ、少し先の、でもなぜか懐かしいような近未来の集合住宅のあり方が提案されています。
ただNEXT21のユニークさは、各住戸の内装だけではありません。集合住宅の特性を生かして、例えば4階では高効率な家庭用固体酸化物形燃料電池(SOFC)によって生み出された電力の融通や排熱の共用部空調への活用により、どの程度住棟内の省エネ化に寄与できるかなどの実験も行われるそうです。昔お味噌やお醤油を貸し借りしたように、同じ集合住宅内でエネルギーを貸し借りするようなイメージを持てれば、より楽しく節約に励めるというものです。
その他、集合住宅全体で再生可能エネルギーとの共存が図られており、太陽光・太陽熱の導入だけでなく、各住戸の台所生ゴミを集めてバイオガスを発生させ、それを都市ガスと混ぜてガスエンジンコージェネレーションの燃料として活用してくれるとか。ここに住むだけで、ゴミを出すときのあの罪悪感が軽減できるなんて、本当にうらやましい。1994年の優良賞エネルギー設備顕彰優秀賞に始まり、省エネルギー建築賞(1996年)、日本建築学会作品選奨(1996年)、日本建築協会賞(1997年)、第25回環境賞優良賞(1998年)、都市住宅学会賞業績賞(2011年)などの華やかな受賞歴にも頷けます。
もちろん実証実験ですので、各家庭の生活パターンが実験担当者には見えてしまうこと、また、アンケートなどの負担もありますが、それでもこのユニークで夢のあるNEXT21の入居希望は、募集の3倍程度の応募があるそうです。応募されたご家族のライフスタイルや志望動機などを聞き、設定されたテーマに最も合う方、ご家族に入居してもらうそうです。社員の家族も含めた「チーム大阪ガス」で、より良い近未来の都市型集合住宅のあり方を模索しているんですね。
こうした生活に近いところでの実験に至る前に、膨大な基礎技術研究・開発も行われています。エネルギー技術研究所は、1947年に中央研究所として始まって以来66年、同社の基盤技術の強化や先進技術の探索・開発を担務しています。「何がネタになるかはわからない。テーマ選定についてはとことんディスカッションするが、とにかく自由に発想力を働かせて研究してもらっている」とは、エネルギー技術研究所企画チームマネージャーの門脇さん。研究所内はとにかく「ネタの宝庫」です。
例えば、入社以来約10年コツコツと一人で騒音防止を研究し続けている金内さん。音源の周波数と空間の固有周波数が一致した時に起こる共鳴現象により騒音が増幅される場合があることを背景に、共鳴予測技術の開発や有効な対策技術の開発に取り組んでいるそうです。
その他、茶かすやコーヒーかすなど単一のバイオマスを大量に確保してメタン発酵する技術について研究したり、土壌浄化に活躍してくれる微生物を探している方、炎の持つ癒し効果を活かせる新たな燃焼方式を研究して「モダン暖炉(ガスヒーター)」を開発している方、ガス調理の物理化学現象を詳細に調べることで、おいしさのメカニズムを解明しようとしている方。どなたも皆さん本当に楽しそうで、技術というのはこうした「これがあったらおもろい」「こんなんできたら楽しい」という発想から生まれるのでしょうね。
それにしても大阪ガスさん、面白過ぎます、ユニーク過ぎます、やり過ぎです(笑)。こんな突き抜けた発想に、「やってみなはれ」と言えるからイノベーションが生まれるのでしょうね。大阪ガスの「環境力」、これからも楽しみに拝見します!