IEA勤務の思い出(2)

-国別審査はこう行われる-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 月曜~木曜までの4日間は体力を使う。昼食はサンドイッチ等で1時間程度だし、1日が終わった後で、チーム内ミーティングをやることもある。木曜午前まで密なインタビューを行う途上で、各審査メンバーはあらかじめ設定された分担に従って1-2ページの分析、勧告メモを作成することが求められる。人数の制約から加盟国からのメンバーで全ての分野をカバーできないため、私を含む事務局スタッフも分担してメモを作成する。私の場合、IEAに来る前の経験に照らし、しばしばエネルギーと環境、省エネ、再生可能エネルギー、エネルギーR&Dについてメモを作成した。担当デスクオフィサーはこれらのメモを集め、全体で8-10ページ程度の「暫定所見と勧告(Preliminary Findings and Recommendations)」を作成する。これは後に説明する本報告書の骨格を形成する大事なペーパーであり、これをたたき台に、木曜の夕方から金曜の午前にかけて審査団内で徹底的に議論するのである。担当分野を決めているとはいえ、自分の担当分野以外の部分について意見を言うことも奨励されている。国別審査課長は、審査プロセス全体を管理する立場から、当該国の過去のエネルギー政策審査との論理的継続性のみならず、他の国のエネルギー政策審査との横の整合性も確保しなければならない。このため、私は過去5年間の全加盟国への勧告のリストを常に携行して、折に触れてチェックしていた。

 どのような勧告をするかは最も議論が白熱する。机上の空論的な勧告をしても意味はない。その国の実情を踏まえた上で、実現可能な勧告案を考えねばならない。審査メンバーの出身国の考え方が色濃く反映され、それが互いにぶつかることもよくある。スクリーンに映し出された勧告原案を見ながら、皆で文言の加除修正を行うドラフティングセッションになる。これはノンネイティブにとっては大変で、ネイティブの専門家は、ニュアンスを含む実にうまい表現を紡ぎ出す。私にとって非常に有益な経験でもあった。

 金曜午前に暫定所見・勧告をまとめあげ、被審査国のエネルギー当局に渡す。被審査国が我々のペーパーを読んでいる間、審査メンバーは外で食事をしたりして一息つくわけだ。午後、ラップアップセッションで審査団長から暫定所見・勧告を説明し、被審査国からとりあえずの感触を聞く。各国でエネルギー政策を担当している専門家が参加しているだけあって、「短期間の滞在で、我が国のエネルギー政策の重点課題を正確に言い当てている」という反応がほとんどだが、勧告内容について異論が提起されるケースも珍しくない。これはあくまで暫定所見・勧告なので、訪問後の本報告書作成プロセスにおいて引き続き議論を続けることになる。いずれにせよ、被審査国とのラップアップセッションが終わると審査メンバーは5日間の重労働から解放される。その後、皆で一杯やるのはとても爽快である。勿論これでプロセスが終わるわけではない。

 第4ステップは本報告書の作成だ。8-10ページの暫定報告・所見は、被審査国のエネルギー政策の現状説明や、分析部分の更なる精緻化を経て、最終的に100ページを超える報告書にまとめあげられる。3人のデスクオフィサーがそれぞれの担当国について作業を行うため、同時に2-3ヶ国の報告書ドラフトが各章ごとにあがってくる。国別審査課長は、ドラフトを読み込んでコメントして返さねばならないが、一度に複数のデスクオフィサーからドラフトが上がってくると、勤務時間中には読み切れないので、週末出勤はざらだった。事務局内でクリアのとれたドラフト案は審査メンバーに送られ、そのコメントを取り入れてから被審査国にも送付される。被審査国からのコメントは、事実関係の誤り等は取り入れるが、勧告内容の大幅な変更、削除を求めてくる場合もある。場合によっては局長まで上げて落とし所を考えねばならないケースもあった。

 最終ステップは、委員会における議論だ。報告書は長期協力問題常設作業部会(SLT:Standing Group for Long Term Cooperation)にかけられる。審査団長から報告書の紹介、被審査国代表から報告書に対する所見が述べられた後、加盟国が被審査国のエネルギー政策について質問、コメントをする。2時間ほどのセッションが終わった後、SLT議長から、被審査国代表に対し、「報告書の勧告を受け入れるか?」という質問があり、「受け入れる」という回答があって報告書が了承されるわけだ。

 チーム編成から委員会における了承まで数えれば約1年に渡る長丁場のプロセスである。私の4年間のIEA勤務の間に24ヶ国の審査に関与し、そのうち16ヶ国については審査団メンバーとしてその国に赴いた。それぞれの審査団には参加メンバーの個性を反映した独特の雰囲気があり、被審査国とのやり取りも含め、実に様々な思い出がある。自分の名前が入り、ドラフティングに関与した報告書の蓄積は、私にとって貴重な財産である。次回は国別審査プロセスの有用性についての所見を述べてみたい。

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