第12回(最終回)セメント協会生産・環境幹事会幹事長/住友大阪セメント株式会社取締役・専務執行役員 中尾 正文氏
循環型社会への貢献、省エネ技術への挑戦
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
――日本が保持している省エネ技術や環境技術を、アジア諸国へ輸出産業として考えていますか?
中尾:そうしたいとは思っています。今、中国でPM2.5が問題になっていますが、環境汚染を防ぐ技術についても、廃棄物を有効活用する環境技術も、日本のセメント産業は進んでいます。
廃棄物の処理の方法は簡単ではありません。廃棄物処理の技術は、もともとセメントという製品のポテンシャルとして、化学成分が合致していれば組み合わせできるということが一つあります。それ以外に分析技術がオンラインで可能になったこともあります。廃棄物の性状は均一ではありませんので、分析データで成分を把握して、うまく組み合わせしなくてはいけませんが、それができるようになってきた事が大きいと思います。
4社で取り組む“革新的セメント製造プロセス技術開発”
――技術革新として、どんなことを計画されていますか?
中尾:現在、太平洋セメント・三菱マテリアル・宇部興産・弊社の4社にて、2010年から5年間を開発期間とし、政府の助成事業として「革新的セメント製造プロセスの技術開発」に取り組んでいます。
鉱化剤の使用や鉱物組成の変更により、又、焼成プロセスの温度をより正確に測定する事で、焼成温度を下げ省エネルギーを図れないかといった技術に取り組んでいます。
セメント産業はエネルギーを多消費する産業ですので、エネルギーをいかに下げるかが大きな課題です。それがCO2の削減にもつながってまいりますので、4社で技術開発し、新しい知見を拓いたものはセメント業界で共有していきたいと思っています。セメント製造におけるエネルギー消費の8%削減するのが目標です。
――2013年はセメント業界にとって、どのような年になりそうですか?
中尾:2013年は当初需要が4500万tくらいと見込んでいましたが、協会では4600万tまで上がると予測しています。一時は4000万tを割るのではないかと、震災前は各社とも合理化を進めていました。しかし今、我々生産サイドで危惧しているのが、ユーザーに対して安定供給を果たせるかということです。
ただこの状態がずっと続くかというと、それほど続かないとも思っています。継続的にコストを削減していく事が重要です。一番大事なことはエネルギーコスト削減の為、引き続き省エネルギーを図っていく事です。
一方で電力政策の方向性が不透明です。セメント産業は電力消費量が多く、電気料金によりコストが大きく左右されます。当社はどちらかとうと自家発電比率が高いのでまだいいのですが、自家発電を持っていない会社では、電気料金の負担増によりコスト影響が大きくなります。
電力供給が不安定なままでは、我々が省エネルギー対策を行ってもそのコスト効果が減少してしまいます。電気料金の値上げは深刻な問題です。
セメントに使用する化石エネルギーはこれまでも変遷を何度か繰り返してきました。最初は石炭でしたが、一時期、重油を使った時代もあります。
その後、2度のオイルショックを経て、また石炭に戻しています。これからもその時その時の社会情勢、経済情勢、エネルギー情勢によって、我々も対策を変えていかなくてはなりません。
【インタビュー後記】
社会の基盤を支える“セメント“を日常生活の中で私たちが意識することはあまりないかもしれません。東日本大震災の後、仙台に足を運んだ際に高速道路を挟んだ右と左の景色の違いにがく然としたことを思い出します。高速道路が堤防の役割を果たし、左側の風景はこれまでと何も変わりがなく、右側は津波により壊滅状態で明暗を分けていました。無駄な公共工事はいけませんが、安全を確保するために必要な工事はやらなくてはなりません。
産業廃棄物や震災廃棄物も原料として利用を進め、セメント産業が果たす資源循環型社会への貢献も忘れてはならないでしょう。セメント製造におけるCO2排出量だけでは測れない環境への貢献度をきちんと認めていくユニバーサルな指標作りも必要です。中尾さんのお話を伺い、セメントは私たちにとって頼りになる存在であることを再確認しました。