望ましい電力供給構造


Policy study group for electric power industry reform

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(はじめに)

 エネルギーの供給に際しては、安定供給、環境調和、経済性の所謂3Eの達成が重要であるが、電力分野において3Eの実現を図るためには、適切な発電設備の構成と運用(望ましい電力供給構造の構築)を図ることが必要である。
 望ましい電力供給構造の姿は、想定される需要に対し電力量(エネルギー量)としてどのようなエネルギーを組み合わせるかという視点(エネルギーミックスの視点)と、発電設備量としてどのような設備構成にするかという視点を併せて考慮する必要がある。これは、電力については生産(発電)と消費が同時に行われ、常時一致させることが供給支障を防ぐのみならず、電圧・周波数といった品質を維持する上で極めて重要な要素であることによる。

1.電力量(エネルギー量)から見た供給構造

 国のエネルギー政策は、その国が保有するエネルギー資源の状況によって異なる。わが国の国内資源がわずか4%しか存在しないという事実に鑑みれば、何よりもまず安定供給が重要な要件である。電力エネルギーの総供給量をEとし、その構成エネルギーをEn(原子力)、Ec(石炭)、Eg(天然ガス)、Eo(石油)、Er(再生可能エネルギー)とすると、以下のとおりとなる。

E=En+Ec+Eg+Eo+Er
 
(注)
本来はErを水力、風力、太陽光、バイオマス等に分けるべきであるが、簡素化のため、まとめて記載した。

 それぞれのエネルギーには供給の不確実性があり、供給支障が生じるリスクがあることから、その点を考慮した最適なエネルギーバランスを保有することが必要である。このEnからErまでの構成エネルギーの比率をどのように保有することが適切であるか検討することがエネルギーミックスの検討であり、それが将来のエネルギー基本計画を策定する際の柱となる。
 供給量が変動する頻度が大きかったり、変動の頻度はあまりないが変動量が大きかったりするなど、各エネルギーは供給量に応じたリスクの特徴が異なる。したがって、あるエネルギーについて万一供給支障が生じた時に全体の供給量に与える影響をできる限り小さくするためには、特定のエネルギーに偏ることなくバランスよく保有することが必要である。単純に各エネルギーを同じ比率で保有することもあるが、各エネルギーの供給確率Pn、Pc・・・が異なること、また水力のように国内の総包蔵水力量で上限が決まるエネルギーがあること等から、これらの点を評価した比率を求めることが必要である。
 下図に各エネルギーの供給量リスクを反映したエネルギーバランスを求める方法の例を示した。
 総供給量Eは、上記の通り各エネルギーの供給量の和となるが、Ex(x;n,c,g,o,r)は変動することから、総供給量の期待値Eeは次式のようになる。

 総供給量の供給確率P(E)は、各エネルギーの供給確率Px(x;n,c,g,o,r)で定まるが、Pxは供給量Exの関数であり、また相互に相関関係を有する場合(例:石油とガスに共通する中東リスク)があることに留意が必要である。
 下図の供給リスクを反映したエネルギーバランスの検討方法では、総供給量の期待値(Ee)を確保すべき供給量に近付けつつ、それを下回る確率の面積を最小化するExの組み合わせを求めることとなる。各エネルギーの供給可能な下限値(例えばLNG燃料の引取単位等)及び上限値(例えば水力における国内包蔵水力量や検討対象期間における原子力の立地可能性から来る上限等)は、制約条件として考慮している。
 (注)確率分布は正規分布ではないが下図では便宜上正規分布で示してある。

 わが国の将来のあるべきエネルギー供給構造をエネルギー基本計画において検討する際には、各エネルギーの供給確率Pを評価することが重要である。Pを評価する際には、当該資源の総埋蔵量(水力等自然エネルギーの場合には国内賦存量)、資源の分布状況及び地政学的リスク、備蓄の状況、技術開発による課題克服の可能性等を総合的に勘案する必要がある。更に、万一他のエネルギーの供給に支障が生じる際に、その支障分を補完しうる供給のフレキシビリティも加味しておくことが重要である。例えば石油については、将来も含めた高い中東依存度と国際的な備蓄スキームの有効性評価、他のエネルギー源の供給支障が生じた際にスポット市場から調達できるフレキシビリティを評価することとなる。他方でLNGは、石油より供給国が多様化している一方、備蓄の困難性や国際的なスポット市場がまだ不十分な点を評価することとなる。またシェールガス革命は、リスク低下要因となりうるが、環境問題で将来採掘が制限されるリスク等も考慮する必要がある。石炭については、現在の主要供給国である豪州の政情は安定しているが、集中豪雨等により一時的に供給不安が生じたことも踏まえ、供給国多様化の可能性、埋蔵量の約半分を占める低品位炭の利用拡大が図られる技術(IGCC等)の開発の見通しも評価する必要がある。原子力については、従来ウラン供給源の多様性や一度燃料を装荷すると3年運転できる備蓄効果等も考慮しリスクを低く評価していたが、福島の事故を踏まえ評価を見直す必要がある。

 なお、現実問題として、変動する将来の各P値を絶対値として求めることは困難であることから、相対的な評価を行い、導入エネルギー量の比率(%)にはある程度の幅を考えておくことが適当と考える。

 エネルギー供給構造を考える際に対応すべき課題として、地球環境問題(CO2の削減)がある。電力量の供給構造についても、この点の制約を考慮(セキュリティ面から見た望ましい供給構造を一部修正)する必要がある。国内におけるCO2の削減目標如何によるが、化石エネルギー電源から排出されるCO2の総量に目標を設け、その範囲に留まるよう供給電力量の比率を修正することになる。ただしCO2の削減については、需要面からの省エネ対策や、わが国の優れた技術を海外展開することよってより効率的にCO2を削減できることも念頭に置く必要がある。したがって、望ましい電力供給構造の検討に当たっては、まず安定供給の視点を主眼に置き、国内におけるCO2の削減目標は、合理的に達成可能な範囲にとどめることが適切である。

 次に供給コストをできる限り低減する課題に応える必要があるが、この点については、発電設備によって固定費と燃料費の構成が異なることから、発電設備の構成を考える際に反映する。

2.発電設備量から見た供給構造

 電力の供給においては、発電と消費が同時に行われる(備蓄が困難)ことから、瞬時において両者をマッチングさせることが必要であり、停電を回避するためには、最大電力発生時において安定した供給が行われるための設備容量を保有することが必要である。発電設備としてどの電源をどの程度保有すべきかについては、必要な時に必要な量の発電ができる能力(供給力)としての評価(例えば風力発電のように自然条件で左右される不安定電源は供給力としての価値はゼロ)や、発電設備の運用特性(負荷調整能力)を考慮した上で、電源ごとの固定費と可変費(燃料費)から見た経済性が最大になるよう計画する。具体的には、将来における電力需要のデュアレーションカーブを想定し、次のとおり、全電源のDC+ECの和が最小となる最適解を求める。この結果、例えば仮にエネルギー供給量の観点から見たバランスではガスによる電力量が25%、原子力が25%と同じであった場合でも、設備量(kW)としてはガス火力を原子力よりも多く保有する(例えば30:20)ことが適切であるという解が得られる。
 なお、供給リスクへの対応力を設備面から高める方法としては、火力発電のデュアルバーナー化(同一の発電設備で複数種の燃料を焚けるようにする)を進めることもあるが、とりあえずこのようなケースは省略する。

【目的関数】
     Σ(DCx+ECx)→ Min
       X :各電源(n,c,g,・・・)
       DCx:固定費(資本費,運転維持費)
       ECx:可変費(燃料費)

(注)
簡略のため上記式で示しているが、実際に計算する際には、ある期間(例:15年間)の値を現在価値に換算して合計することとなる。
【制約条件】
 
長期の需要見通し(伸び率,負荷率)とそれに対する供給予備力の確保
各ユニット特性(最大/最低出力、燃料種別、年間補修日数、発電機の建設単価、熱効率、負荷追従率等)
燃料価格変動、為替変動

3.現実の供給構造との差異

 エネルギーバランスから見た供給構造に、地球環境対策からのCO2削減目標と設備面から見た経済性や制約要因を考慮し調整することにより、現実的な電力供給構造の将来目標を策定することになるが、特に開発の制約要因は、望ましい電力供給構造の実現性の面で十分考慮する必要がある。具体的には、電源の立地問題や各種規制等が挙げられる。
 電源の立地制約については、かつては公害問題を背景に火力発電所の建設が困難化する事態があり、その後は安全性の問題を背景に原子力の立地が困難化していることから、計画通りの開発が困難化しており修正を余儀なくされている。電源の立地対策については、従来政府も事業者と一体となって支援措置を講ずる等、望ましい供給構造の実現に向けた努力を図ってきた。
 電源の開発を阻害する規制上の要因としては、例えば水力発電所の建設に必要な水利権の問題、環境負荷物質の総量規制や国立公園内において地熱開発が制約される等環境面の制約問題等がある。また、船舶交通が輻輳する瀬戸内海地域において、かつてLNG船の規制によりLNG火力の建設が制約されたような場合も、規制上の制約要因に当たる。

(おわりに)

 各電力会社管内の固有の制約要因もあり、電力供給構造は電力会社によって異なるが、政府と事業者の相互協力による継続的努力の結果、わが国全体としての電力供給構造は、石油危機当時に比べ改善が大きく進んだ。
 今後は新たな情勢変化を踏まえ、今日的な修正を加えることにより、将来に亘り望ましい電力供給構造が構築されることを期待する。他方、現在政府において電力システム改革の議論が進んでいるが、英国や独国において既に問題が顕在化しているように、競争市場においては、長期的視点に立ち計画的に電力供給構造を構築することは困難であることから、エネルギー資源に乏しいわが国がこれまで築いてきた電力供給構造が歪められ、将来の3Eの実現に支障が生じる懸念がある。今後、このような支障が生じないよう、十分な検討が行われることを併せて期待するものである。

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