停電と発送電分離を論じるための基礎知識
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
送配電設備の故障による停電を減らすには
したがって、「日本では停電が少ない」は、「日本では送配電設備の故障による停電が少ない」とほぼ同義である。そして、発送電分離によって停電が増えるかどうかを議論するのであれば、まず、日本で送配電設備の故障による停電時間が少ない理由を理解するところから始めなくてはならない。
送配電設備の故障による停電を減らすには、次のことが有効である。
① 送配電設備の故障を減らす。
② 送配電設備が故障しても、停電の広域化を未然に防止する。
③ 停電に至っても、早期に復旧させる。
これら3点に関する日本の状況や発送電分離との関係ついて整理してみる。
まず、「①送配電設備の故障を減らす」には、適切な投資やメンテナンスが維持されなければならない。ただし、メンテが適切に行われていても、設備の故障はゼロにはならないし、雷や台風等の自然災害もある。そこで、「②送配電設備が故障しても、停電の広域化を未然に防止する」が重要になる。そのための工夫について、日本の電力システムは大変優れている。簡単な例を図1に示した。
図1:
図1に示す送電線3ルートのうち、1ルートが故障したとする(1ルートは通常2回線で構成されておりここで想定する故障は2回線ともダウンする故障である)。この段階で特段の対策をとらなければ、残る2ルートで送電を行わなくてはならないが、このルートに、2ルートでは持ちこたえられない電流が流れる場合は、残った2ルートもダウンするドミノ倒しとなり、広域停電に至る。
広域停電を未然に防止する系統安定化リレー
そこで、日本の電力システムでは、1ルートが故障した段階で、系統安定化リレーと呼ばれるシステムが稼働し、この送電ルートを流れる電流を残った2ルートで持ちこたえられる量まで即座に抑制する。この図で言えば、G1の発電量を迅速に抑制する。その結果、需給のバランスが崩れるので周波数が低下することになるが、系統全体として持ちこたえられる程度の低下であれば、停電は発生しない。持ちこたえられない周波数低下であれば、必要最小限の停電を人為的に発生させることになるが、停電範囲は狭い範囲に抑えられる。
また、このような調整を事前に予防的に実施することもある。即ち、雷雲の発生などで当該送電ルートに故障が生じるリスクが高まった時は、あらかじめ、当該ルートを流れる電流を一定値以下に抑制しておけば、実際に落雷で故障が起こっても、周波数の動揺は抑えられる。
表2にここ数年先進国で発生した、基幹送電設備の故障による停電を示した(大規模災害によるものを除く)。きっかけはいずれも基幹送電設備が何らかの理由で故障したことによるものであるが、海外では図1で示したような系統安定化リレーは設置されておらず、日本に比べて停電規模が大きい。「ドミノ倒し」の防止に失敗して、停電が広域化し、その結果として、復旧にも時間がかかっている。対して、日本の場合は、停電範囲を限定することに成功したことから、復旧も迅速に行われ、その結果、停電時間は短くて済んでいる。
続いて、「③停電に至っても、早期に復旧させる」については、これは以前の記事「日本の停電時間が短いのはなぜか」でも取り上げているが、ハード面では、配電システムの自動化が、欧米諸国よりも進んでいることだ。遠隔操作で故障個所の切り離し、再送電が出来ることにより、停電時間の短縮に貢献している。ソフト面では、常日頃より訓練を欠かさず、発電から送電・配電・需要設備まで相互に整合をとった迅速な復旧作業が行えるように備えていることだ。2011年3月の東日本大震災では、東北電力が、1000年に一度と言われた大地震、大津波に襲われ、広範囲にわたる設備の損傷があった中で、1カ月で停電を解消している。発送電分離している米国では、毎年襲ってくるハリケーンからの復旧に、1カ月以上かかることも珍しくない。パフォーマンスは、東北電力の方が優れていることは間違いないと思われる。
以上まとめると、日本において送配電設備の故障による停電が少ない背景は、以下の4点となる。
- a)
- 適切な投資やメンテナンスが維持されていること
- b)
- 系統安定化リレーにより、設備が故障しても停電の広域化を未然に防止していること。
- c)
- 配電システムの自動化が進んでいること
- d)
- 相互に整合をとった迅速な復旧作業が出来ること