二兎を追った先にある悲劇

—電力自由化と再生可能エネルギー促進の同時追求をしたドイツ—


Policy study group for electric power industry reform

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ガス火力や石炭火力を駆逐しないための苦肉の策

 現行のドイツの仕組みでは、再生可能エネルギーが増加するほど、卸電力市場の顕著な価格低下につながるため、在来のガスや石炭火力発電所の収益性は圧迫される。「エネルギー転換」という国策の一環として、火力発電よりも再生可能エネルギーを優遇しているのだから当然の結果でもある。しかし、その帰結として火力発電所が電力市場から駆逐されてしまうとどうなるのだろうか。

 図2は50Herz Transmission社というドイツ東部のTSO(2012年の域内最大ピーク需要1,396万kW)が買い取った風力発電の発電量を示したものである(同社エリアに2011年末までに設置された風力発電設備容量1140.8万kWを基準(=100)とする相対値をプロット)。風力発電の電気は不規則に変動し、出力が設備容量の5%にも達しない時間帯が30%程度もある。このように風力発電の発電量が少ない時間帯には、在来の火力発電によるバックアップやエリア外からの電力輸入によって、電力供給をまかなわなければならない。また、需要と無関係に出力ゼロになることもあるわけであるから、風力発電が増えたからと言って、既存の火力発電設備は廃止できないことになる。つまり、風力発電の優遇によって在来の火力発電が市場から駆逐されてしまえば、風力発電が不調の時期には、その分だけ供給力不足が生じることになる。

図2 ドイツ50Hertz Transmission社エリアでの風力発電出力(設備容量に対する%)
(2013年1月1日~2013年2月16日)

 このため、ドイツ政府は2012年末になって、電力不足に備えてTSOが一定量以上の負荷遮断契約(需給ひっ迫時に緊急的に需要を削減する契約)を締結することを法制化した。さらに2013年からは、火力発電所を保有する発電会社に許可なく設備を廃止することを禁じるとともに、系統安定上必要であると認定した火力発電所については5年間の運転継続を命じ、この間の火力発電の維持にかかわる費用を政府が補てんすることを決定している。加えて2013年6月からは、新鋭のガスコンバインドサイクル火力発電所などの建設に対して、何らかの助成を行うことまで検討しているという。再生可能エネルギーを優遇・助成する措置を進めた結果、皮肉なことに「系統を崩壊させないように」(Die Welt紙)火力発電への助成も行うことが必要になったわけだ。

発送電分離とFITの帰結は民間による電気事業の終焉?

 ドイツの事例は、FITによる再生可能エネルギーへの助成・優遇を始めると、その帰結として火力発電への助成・優遇措置も同時に必要となってくることを示している。ドイツは電気事業の発送電分離と全面自由化を行い、発電事業者は供給義務を負っていないから、再生可能エネルギーによる電気の投げ売りによって、火力発電設備の収益性が悪化すれば、既存の発電事業者は撤退するだろうし、新規参入などは到底望むべくもない。それを引き止める、あるいは新規参入を何とか呼び込むために政府が介入し、助成・優遇を行わざるを得なくなっているわけだ。電力取引所であるEEXは政府介入に対する懸念から、「政府・規制当局からの介入が増加するほど、投資家にとっての不確実性が増大することになり、究極的には投資意欲は損なわれる」との声明を発表している(2013年2月)。冒頭紹介した通り、Die Welt紙も政府が市場に介入すればするほど取引価格が歪められて、電力システムはかえって手に負えなくなると警告する。

 このような政府の介入は何をもたらすのか。市場価格や火力発電設備の稼働率が低下しても発電事業者に損失が発生しないようにするためには、少なくとも火力発電所の固定費・可変費の合計と市場からの収入の差額を政府が補填する必要がある。そうなれば火力発電事業者にとっても電気が市場で売れさえすればよく、EEXの市場価格は意味を持たなくなっていく。究極的には前述したTSOによる再生可能エネルギーの投げ売りとあいまって、市場価格が頻繁に下限に張り付くような状況が生じる可能性がある。