ドイツの電力事情⑧-日本への示唆 今こそ石炭火力発電所を活用すべきだ-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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◯日本の高効率・高環境性能の石炭火力の活用を

 この場合、エネルギー政策の3E+Sをどうバランスさせるべきか、人それぞれに意見が異なることだろう。しかし、全国の原子力発電所再稼働が不透明であるなか、ベース電源となりうる石炭火力まで排除することは、我が国のエネルギー安全保障上、大きな問題ではないか。現在日本においては、火力発電依存度が9割を超えるという不安定極まりない状態になっており、特にLNGへの依存度が高まっている。しかしながらLNGの安価調達を可能にするためにも、もう一つのオプションを確保しておくことは非常に重要である。 

<米国・欧州(英国)天然ガス価格と日本のLNG価格の推移>


 上記グラフは、米国ヘンリーハブ価格と欧州(英国)市場価格、日本の天然ガス価格(全日本LNG通関CIF価格(JLC))の推移を示したものである。シェールガスの産出により安値で推移する米国ヘンリーハブ価格はさておき、東日本大震災以降の日本の天然ガス輸入価格の上昇幅は非常に大きい。欧州(英国)市場でも上昇しているが、日本の上昇幅はそれを大きく上回っている。また、関西電力の大飯原子力発電所3、4号機が再稼働した翌日には、日本のLNG輸入価格が大きく下落したという事象もあった。これらを考え合わせると、高度に政治商品である化石燃料の調達交渉において、代替手段を有しているか否かが交渉力に決定的な違いを生じさせることがわかる。政府は3月19日、原発停止で増大するエネルギー調達コストの削減を図るべく、関係閣僚による初会合を開催したが、購入方法等の改善のみで安価な調達が可能になるものではないことに留意すべきだろう。
 また、世界で必要とされる高効率石炭火力の技術を輸出するためにも、国内での使用実績や技術の維持・向上は必須のものだ。原子力も石炭も否定することは、天然ガスの「一本足打法」になってしまう。冒頭述べた通り、エネルギー政策は3E+Sをバランスよく考えるべきもので、「一本足打法」は取ってはならない戦法だ。CO2排出削減は高効率火力の技術移転を含めた海外での削減やその他の手法で達成することを考えるべきだろう。
 そもそも石炭のメリットとしては、今後200年以上も利用できる豊富な賦在量があること、世界的に幅広く分布して産出国が多様であること、そして何より安価であることから世界的にもまだまだ活用が見込まれる燃料であり、実際現在でも世界の発電量の約4割が石炭火力によるものである。
 そして、日本の石炭火力発電所の効率は世界に冠たる実績を誇っている。