ドイツの電力事情⑧-日本への示唆 今こそ石炭火力発電所を活用すべきだ-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
◯東電火力電源入札に関わる政府部内見解の不一致
ドイツの問題は、全く対岸の火事ではない。日本ではまだ、再生可能エネルギー全量固定価格買取制度の賦課金も(昨年制度がスタートしたばかりなので)負担が小さく、風力発電の導入もまださほど進んでいないため送電線増強の必要性が、問題として露呈するまでには至っていない。しかし安定的な電源の調達いう点で、石炭火力発電を巡って落としどころの見えない問題が生じている。
日本政府は地球温暖化問題について、2050年に温室効果ガス80%削減
を目指す目標を閣議決定している(平成24年4月決定 第四次環境基本計画)これを踏まえて、「新しい火力電源入札の運用に係る指針(H24.9)」では、新規火力の入札にあたり、国の計画との整合を問われることとなっている。
この指針の内容を詳しく見てみると、
「6.評価及び落札者の決定の方法」の部分に以下の記述
(1)応札条件及び評価項目・基準の設定方法の詳細
(a)応札の最低条件
- ⑤
- 遵守すべき基準 - 設置される発電設備は、電気事業法、計量法、環境関係諸法令(大気汚染防止法、環境影響評価法(注釈1)等)等、発電事業に関連する諸法令(政令、省令、技術基準等を含む)を遵守していること。
- (注釈1)特に、CO2に係る環境影響評価においては、「環境影響が、実行可能な範囲内で回避又は低減されているか」、「京都議定書目標達成計画との整合が図られているか」について検討されている。前者に関し、新たに設置される設備についてはBAT(適用可能な最善の技術の適用が条件となることから、そのような設備を導入する必要があることについては、入札実施会社が入札要綱において明らかにする必要がある。また、後者については、今後策定される予定の当該計画の後継計画との整合が図られているかについて検討されることになる。
とある。
電源不足に悩む東京電力は、設備投資負担を抑制するために、火力電源の新規開発・リプレースにあたっては入札を行って他の事業者から電力購入することを原則とした。これに基づき昨年11月、平成31年6月から平成33年6月までに供給開始するベース電源260万kWを一括して募集することとした訳だが(東京電力HP「火力電源の入札募集の実施について」)、燃料種別を指定しているわけではないものの、火力電源でベース電源を条件とするとCO2対策コストを含めても、入札上限価格が9.53円/kWhとなり、実質的に石炭以外の燃料では実現不可能な低価格となっている。これに対し、CO2の排出増を問題視する環境省から東京電力の火力入札募集実施に待ったがかかっているのだ。安定的で安価な電源調達を少しでも早く成立させたい経済産業省と、地球温暖化問題への原則を曲げられない環境省が互いに譲らず、事業者である東京電力は間に挟まれた格好となっている。 過去にも、PPS(新電力)が計画した石炭火力発電所の新設が、温暖化問題を理由に環境省に反対意見を提出され、計画が頓挫した事例もあり、石炭火力発電所の新設に待ったがかかることは今回が初めてのことではない。
しかし、現在の日本のエネルギー事情は以前と大きく異なっている。