二国間オフセット・メカニズムを通じた鉄鋼省エネ・環境技術の世界への普及促進


日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会委員長

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 製鉄所の総合エネルギー効率(製鉄所全体のエネルギー効率ということからここでは、総合エネルギー効率と呼ぶ)は、省エネ対策のみならず種々条件の影響(生産量や製品の構成、原料条件の変化、高機能製品の製造や環境対策による増エネなど)を受けるため、トップダウン的にエネルギー効率(粗鋼生産1トン当たりのエネルギー消費量(ベンチマーク)など)目標を設定することは省エネ対策と相関がない可能性もあり、意味をなさない。総合エネルギー効率については、個々の製鉄所の状況に応じて要因を十分に把握したうえで議論する必要がある。一方、個別省エネ技術の導入効果は、省エネ対策の努力の成果そのものである上、切り分けて定量化が可能であり、CDMやBOCMにおいて、個別省エネ技術導入ごと(いわゆるプロジェクト・バイ・プロジェクト)の評価を指向している。
 キャパシティ・ビルディングを通じて、製鉄所の総合エネルギー効率を算定し要因分析を行う能力を身につけることは、PDCAを実行し、自律的・継続的な改善行動を行う上で必須である。

2013年2月5日日印鉄鋼業官民協力会合(東京)

3.二国間連携推進の意義、各主体の役割とベネフィット

 このような協力的セクトラル・アプローチを通じて省エネ・環境技術を世界に普及することの意義について、各主体(両国政府及び民間、計4主体)にとっての立場で見てみることにする。
 まず、全体に共通の意義としては、資源・エネルギーの効率的使用により、その調達単価の高騰を抑止すること、CO2や環境負荷物質(SOx, NOxなど)排出抑制による経済成長制約の緩和を行うことなどがあげられる。
個々の主体の役割とベネフィットについて以下にまとめる。
 日本政府にとっての意義は、日本の貢献を定量化するとともに、日本の2020年目標達成に向けた実効的で低コストの選択肢の潜在性を追求することにある。さらに、この制度を通じて日本政府は優れた日本の省エネルギー技術と環境技術を海外に普及させる機会が得られる。また、日本政府の役割は、個別プロジェクトの取り扱いに関する相手国政府との協議にとどまらない。民間部門と共同で排出削減プロジェクト導入の際の障害の撤廃・低減に向けて相手国に働きかける取り組みなども含まれる。例えば、途上国政府が多額の化石燃料補助金を導入したり、低エネルギー価格政策を採用する場合には、省エネルギー投資の妨げとなる。このような障害を取り除くための、種々情報の提供なども含まれる。
 途上国政府にとっての意義は、省エネルギー目標達成のために課せられた排出量増加の制限を緩和し、資源・エネルギー及び環境問題を解決するためのツールとして制度を利用できることである。このほか、途上国における、①実効的な国内政策措置の推進、②低炭素社会の効率的な実現、③厳格ではあるが実行可能な規制導入による技術普及の促進、などを目的としたキャパシティ・ビルディング活動を受けることができるという点でも意義がある。
 途上国の民間(鉄鋼業)にとって、省エネプロジェクトに実際に投資する視点からすると、制度が存在することで、CDMプロジェクトとして扱うには難しすぎるプロジェクトを救済し、先進国の製鉄所で省エネ技術を実際に導入した経験を持つ専門家や有識者からの助言や継続的な技術サポートを受けることができる。
 一方、日本の民間(鉄鋼業)にとっての制度の意義としては、第1に、低炭素社会実行計画の柱の一つである、日本で開発された省エネルギー技術の移転・普及を通じた世界レベルでのCO2削減効果の定量化と貢献の評価(アピール)、が挙げられる。第2に、日本の鉄鋼業や関連メーカーにとっては自社のエンジニアリング能力を投入する機会が提供されるという魅力もある。第3には、適格性の判断基準(技術に関するポジティブ・リスト)や削減効果の算出などのルール作りの事例を提示することにより、技術をベースにしたボトムアップ・アプローチの意義を具体的な実績で示すことができるという点で意義がある。
 ここで目指している、オフセット・メカニズムは、理想的には国際的にハーモナイズされたものであることが望まれる。しかし、多国間交渉には時間がかかり、少なくとも当初は喫緊の課題としてエネルギー効率改善などの課題を抱えている、参加国やセクターを絞り込み、実効的・合理的で透明性・信頼性の高いメカニズムというコンセプトを構築し、複数の国々・セクター間の調和・統合を最大限に確保した上で、単一の国際的な枠組みへと発展させていくというのが、より現実的で実効的なアプローチであろう。日本の鉄鋼業も協力的セクトラル・アプローチの推進を通じてこれらの取り組みに積極的に関わっていく。

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