続・発送電分離の正しい論じ方


Policy study group for electric power industry reform

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送電会社の役員人事を国が握るべきか

 前述のとおり、法的分離は、送配電部門の機能を中立性への影響の程度によって仕分けることはせず、全体として別会社に分離する。そのため、分離した会社のガバナンスを規制することにより、中立性を確保しようとすることが多い。

(法的分離の)行為規制についてはフランスがモデルになる。(送電会社の)人事は政府が握っており、親会社は議決権を持たない制度となっている。これらは根幹を成す部分。(第9回)

 欧州では、欧州委員会による電力自由化の指令により、法的分離(ITO)を選択する場合は、送電会社の役員人事を国の承認事項とするよう定めており、フランスもそれにしたがっている。上記の意見は、同様の措置を日本でも講じるべき、との主張である。しかし、電力会社に国営企業、あるいはかつて国営企業であった企業が多い欧州と異なり、日本の電力会社は(一時国営化されている東京電力を除き)純粋に民間企業である。その役員人事を国が握るというのは、相当に異例のことである。

 そもそも欧州市場において、役員人事に国が関与することが、どれほど中立性確保に寄与するのだろうか。特に、フランスは、政府が国営発電・小売会社EDFのオーナーでもあるので、同じ政府が送電会社の人事に関与したから中立的とは言えないだろう。また、政府が発電・小売会社を直接保有していないとしても、欧州市場は国を跨いで事業者が競争する市場である。政府の息のかかった送電会社役員であれば、自国の事業者を優遇するインセンティブはあるわけなので、他国の事業者の目から見れば、やはり中立的とは言えない。むしろ、各国政府の利害を反映するために、送電会社の役員人事を握っているという解釈も出来なくはない。

 日本の場合、国が送電会社の経営への関与を強めることで、整備新幹線や高速道路並みとは言わないまでも、送電線建設が政治案件化あるいは公共事業化する懸念はないだろうか。実際、電力会社の設備投資が公共投資に準ずる位置づけであった時期も、かつてはあったわけである。その時代に戻ってしまう懸念はないのだろうか。あるいは、送電会社の資材調達が、かつての日米貿易摩擦の様に、外交上の配慮といった国の都合で歪められる懸念は無いのだろうか。中立性確保の効果が、この懸念を補って余りあるものなのかどうか、良く吟味すべきである。

 なお、第9回委員会では、法的分離した送電会社の役員人事について、国が関与するのではなく、社外取締役を過半とする案が事務局から示された。これには、複数の委員が否定的な意見を述べている。そのうちの一人は、新電力であるJXエナジーホールディングの社外取締役である。社外取締役と言っても中立的とは言えないことを、ご自身実感しているゆえの意見と拝察する。

機能分離・法的分離の選択の前に

 実際のところ、機能分離と法的分離のどちらが望ましいかは、様々な切り口が考えられて一概には言えない。また、両者の比較に関するこれまでの議論が、十分熟しているとも思えない。そもそも、両者の選択以前に「発電と送配電がそれぞれの責任の下で協調し、安定供給を確保するルール・制度の整備」という両者共通の大きな課題がある。まずはこちらの検討を優先して進めるのではないか。その過程の中で、両者の優劣について、新たな視点が浮かび上がってくることも考えられる。

 また、前回記事でも指摘したとおり、需給がタイトな中で大きなシステム変更はリスクが大きい。エネルギー政策の議論を先行するとともに、電力需給の回復を図ることも必要だろう。