電力システム改革論を斬る!
新政権の下、電力供給システム改革議論はどうすべきか
-レッテル貼りを超えた議論を-
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
雑な議論はこの際検証を
さて、これまで開催されてきた「電力システム改革専門委員会」では、総じて電力会社の取り組みについて、厳しい意見が多かった。中には、今までの審議会の議論は、電力会社の政治力ゆえに歪められていたと公言する委員もいた。したがって、上記の朝日社説のように新政権が「電力会社の既得権益を守るような動きを見せる」ことを警戒して、システム改革の議論を急ぐよう主張する向きもあるかもしれない。しかし、レッテル貼りの中で拙速に議論が進むのも不幸である。これまでの議論にはかなり雑なものもある。この機会に検証してみることも重要だろう。以下、これまでの委員会の議事要旨の中から、目に付いた委員発言について、いくつかコメントしてみる。
- (1)
- 震災からの復旧が早かったとしても、垂直統合や資本関係があったことが理由にはならない。資本関係がない自動車部品産業であっても、結果として復旧が遅かったということはなく、復旧のスピードと関係する会社の資本関係の有無は無関係。(第4回)
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- 資本関係がない自動車部品産業も災害復旧は迅速であったとして、垂直統合が迅速な災害復旧に資するとの主張に反論しているが、在庫が利き、供給が滞っても直ちに生活に直結するものでもない自動車部品と、電力で求められる迅速性の程度は当然違うと思われ、自動車部品産業で問題ないから電力も分離しても大丈夫というのは、反証としてはかなり乱暴である。
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- また、自動車部品産業は、強固な系列取引等、資本会計に代わる関係によって、迅速性が支えられている可能性がある。これは垂直統合と実質変わらないので、発送電分離における発電と送電の関係には敷衍できない。
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- むしろ、本件については、海外の発送電分離型システムとのパフォーマンス比較を行うべきだろう。昨年秋に米国東海岸を襲ったハリケーン・サンディによる停電被害とその復旧状況を見る限りは、発送電分離型の電力システムが、自然災害の復旧において良いパフォーマンスを上げているとは言えそうもない。むしろ、各部門間のインターフェースを適切に設計するという課題を浮かび上がらせていると言えそうだ。(過去記事「ハリケーン・サンディによる米国東部大規模停電が問いかけたもの」参照)
- (2)
- 再生可能電源と発送電分離は無関係ということについては全く証明されていない。一般電気事業者が自らのビジネスモデルと異なる分散型電源の事業者を差別しているのではないか、または差別しようと思えば可能である懸念が繰り返し指摘されている中で、再生可能電源と発送電分離は無関係とは言い難い。(第4回)
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- 発送電分離をすれば再生可能電源の導入が進むとの意見は時々見かけるが、分離をした送電会社が、再生可能電源の系統接続を積極的に認めるだろうとの期待があるものと思われる。しかし、再生可能電源の出力変動をバックアップするのは、分離した発電会社である。発電会社がバックアップを拒否したら、再生可能電源は導入できない。
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- 従来のRPS(Renewable Portfolio Standard)法の下では、一定の義務量を超えて電力会社が再生可能電源から電気を購入するインセンティブは全くなかった。そればかりか、再生可能電源が接続されれば、出力の変動に備えたバックアップ電源の確保等コストがかかるが、そのコストをだれが負担するかという議論はほとんどなされず、結局電力会社の持ち出しであった。これで、電力会社に積極的になれと言っても無理である。
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- つまり、バックアップ等に係るコストが適切に支払われる仕組みこそ重要なのであり、結局は費用負担を誰がするか、という問題である。
- (3)
- 発電と送電が分離していたら危ないということであれば、今の制度でも、新電力のシェアが増えたら危ないということと同義なので、そのようなシステムは速やかに見直すことが必要。電源開発(株)の発電所は現状の制度でも送配電部門から分離されているが、電力会社との連携が悪く、問題が生じていると言えるのか。(第7回)
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- 電源開発(株)の電源は、電力会社と長期の卸売契約を締結しており、電力会社(の発電部門)の競合相手ではないので、発送電分離における発電と送電の関係には敷衍できず、反証としては乱暴である。
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- 新電力のシェアが増えれば、お互いに競合関係にあり、自社の利益を優先するインセンティブを持つ複数の発電会社(発電部門)と、送電部門の連携を確保するルールが必要になり、その点で指摘は正しい。ただし、新電力の電源のシェアが増えるにしても、電源の建設には数年から十年単位の時間がかかるので、「速やかに見直すことが必要」とは言えない。慎重に議論を進める時間はある。
- (4)
- 今までの電力システムは、平常時は問題ないが、災害などにより需給がひっ迫した場合に需給の調整が効かなくなる問題が生じることは今まで指摘してきた。それが震災で顕在化した。分離は、危機の時に有効だという側面もある。(第7回)
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- 市場メカニズムの活用が重要との指摘であるが、リーマンショック等を思い浮かべても、市場メカニズムが非常事態においても機能するとの考えは楽観的過ぎると思われる。
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- 電気の場合も、需給が極端に厳しい時、系統運用者は、市場原理を無視して様々な手段を講じるのが、海外においても普通である。これは、調整に失敗すれば、コントロールできない広域停電を引き起こすことになり、この外部不経済が膨大であるからで、経済学でもこのような系統運用者の行動は説明可能である。