COP18の概要~産業界の視点(第1回)
手塚 宏之
国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)
温暖化対策か富の再分配か?
途上国の数が勝り、環境NGOにとり囲まれた国連交渉の場においては「温暖化は先進国が引き起こした災いであり、被害を受ける途上国に補償をするのは当然」という論調が大勢を占めている。結局今回も、先進国の資金協力の件では紛糾し、カンクン合意にある「2020年までに年間1000億ドルの資金協力を実施する」という先進国プレッジに対して、中間的に毎年600億ドル(毎年約5兆円!)をコミットするという文言の記載を先進国に求めた途上国と、目下の経済情勢では一切の定量的な資金コミットはできないとした先進国の間で激しく対立し、長期資金については議論を1年延長して継続することとなった。自国の「財政の崖」を巡り激しい政争を繰り広げている米国や、ギリシャ・スペインの財政破綻を回避するための資金を誰が負担すべきかで議論を続けているEU、社会保障の破綻を避けるべく消費税増税が不可避とした民主党が政権を失った日本などの実態を見たとき、このような莫大な資金支援の要求が昨今の世界情勢から見ていかに現実性がないものであることについて、この国連交渉の場ではほとんど省みられていないように思われる。
ただその一方で今COPでは、途上国で発生した気候変動ダメージ(水害や旱魃)への損失、被害補償(Loss & Damage)のための枠組みを新たにCOP19で立ち上げるという、適応基金、緑の気候基金に次ぐ新たな資金協力の扉が開かれた。(当初途上国は、先進国が温暖化のライアビリティ(責任)への補償として払うべきと主張していたが、加害責任(liability)の下での補償的な資金援助は絶対認められないとした米国の強い主張で、「支援(Aid)」という位置づけに落ち着いたという。)新規に設立されたものの、未だ中身が空で、どうやってファイナンスしていくか決まっていない「緑の気候基金(GCF)」に続く、さらに新しい資金支援のメカニズムを作るというのは、先進国側からみるといささかやり過ぎではないかとの批判も聞こえてきそうだ。
こうして見てくると結局この気候変動に関する国連交渉は、温暖化対策という名目による北から南への資金援助~富の再配分~の交渉をしているのであり(国別排出枠のトップダウンでの設定も、いわばエネルギー使用枠の配分という意味で、間接的に富の配分を行っているともいえる)、現実の世界で温暖化対策に確実に寄与するはずの、省エネや低炭素技術による実際の温暖化対策の実行や促進策といった現実的な対策は脇役に押しやられているという皮肉が起きているという印象だ。
(つづく)