電力供給を支える現場力②
-冬に備える北海道電力苫東厚真発電所-
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
「厳冬期には電気は絶対に止められない」のだ。
しかし、高温の蒸気と圧力にさらされて火力発電設備の金属の疲労は激しい。原子力発電の蒸気条件は圧力50~60kg/cm2、温度は300度程度だが、例えば苫東厚真4号機は圧力250 kg/cm2、温度は600度にもなる。頻発するトラブルとしては、復水器(蒸気タービンを回転させた後の蒸気を冷やして水に戻す設備)の配管に穴があき、冷却水が漏れ込む事象で、苫東厚真でも平成24年度だけで1号機で3回、2号機で2回発生している。冷却には海水を使っているため、漏れ込むと塩分がボイラーなどの金属を腐食させて、各種設備や機器の寿命を縮めるとともに、蒸気配管を破孔させる恐れがあるので、緊急対応を要する。
発電所の中央操作室では常時、復水器の導電率をモニターしており、異常値が検出された場合には、その系統を止める。苫東厚真2号機は総出力60万kWだが、2系統のうち1系統を止めるので、その間出力は半分になる。停止させた系統の細管全ての片側に手作業で栓を打ち、その後泡の立つ洗剤のような液体を反対側に塗る。復水器は真空となっているため、リークしている細管でのみ泡が吸引されるのを目視で確認するのだ。リークした細管は両端に栓をして海水が流れ込まないようにして、作業は終了となる。苫東厚真2号機の細管は直径約32㎜、長さ約19m 、それが1系統あたり8,792本、2系統存在する。この本数の中からわずか1ミリから数ミリ程度の穴を見つけだすこの作業を、どれだけ素早く終えることができるかは、日頃の訓練や長年の経験により大きな差が出るという。作業に必要な時間はケースバイケースだが、これまでの平均では20時間程度だったそうだ。
まだ設備が新しい4号機はトラブルが少ないものの、その出力が大きいが故にこれが脱落したときのダメージは大きい。そのため、今年5月20日から10月19日まで5カ月にわたってボイラーからタービンまでの主蒸気管の一括取り換えという、おそらく全国的にも前例のない大改修を敢行している。1日最大890人、延べ8万5千人超の方が作業に関わった大工事だったという。
日常的なパトロールも重要だ。発電所運転員によるパトロールは毎日3回、これに設備保守員の巡回や設備製造メーカー社員による健全性チェックなどを追加して、異常の早期発見に全力を挙げるという。しかし、音やにおい、配管に聴診器をあてて感じる振動などから「設備の声」を感じ取るには熟練の技術が必要だ。苫東厚真火力では敷地内に火力技術研修センターを作り、技術の継承を図っていくという。
初めて現場を訪れた私にも伝わる張りつめた緊張感が現場にはあった。苫東厚真火力の保苅所長は「協力企業の皆さんやメーカーの方々、そして社員には感謝してもしきれない。彼らの『止めない』という強い気持ちに支えられている」と語ってくださった。
日本の停電時間が他国に比べて格段に低いのは、「供給本能」と表現したくなるほど高い、現場を支える方たちの安定供給に対する意識・意欲に拠るところが大きい。日々電気を消費していても見えないものが、コンセントの向こう側に確実に存在していることを改めて感じた。政府はこれから12月までの間に電力システム改革に関する方向性を提示するというが、我々が失ってはならないものがここにあることを踏まえたうえで議論を進めてもらいたいと切に願う
追伸)この原稿を書き上げた後の11月27日北海道を暴風雪が襲い、30日の15時45分を持って全面復旧したという。改めて自然の厳しさを思い知り、停電の不安の中で過ごされた住民の方々には心よりお見舞い申し上げるとともに、復旧に全力を尽くされたであろう北海道電力の方々に敬意を表したいと思う。