第7話(2の2)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その2)」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
4.まとめ
この20年間、世界の気候変動交渉は、国連気候変動枠組条約と京都議定書をベースとする「リオ・京都体制」を中心に回ってきた。この体制の一年のハイライトが、毎年11月末から12月の初旬にかけて開催され、世界中の環境関係者が一堂に集って各々の主張を繰り広げるCOPである。この仕組みは今後いつまで続くのだろうか。
前述のとおり、COP17では、2015年までに新たな枠組み(ダーバン・プラットフォーム)を策定して2020年から実施すること、また日本やロシアは加わらないものの、2017年または2020年までEU等の一部先進国が義務を負う形で京都議定書の「延長」を行うことが決定された。少なくとも外観上は、2020年頃までは「リオ・京都体制」は、現在の形で続いていくであろう。いったん出来上がった国際的枠組みは、たとえそれが国際社会の変化を十分に反映しなくなっても、意外と長続きするものである。既存の枠組みに利害を有する関係者(ステークホルダー)が時とともに増え、枠組み存続への慣性が強く働くからである。国連機関のように条約に基づく組織は特にその傾向が強い。
とはいえ、今後「リオ・京都体制」は、大きな質的変化を迎えることが予想される。
まず、京都議定書については2020年までに原型から大きく変わることはほぼ確実である。カナダの脱退に続き、日本、ロシアが第二約束期間に参加しないことで、来年以降に法的義務のカバレッジが下がることも大きいが、EUが2020年までの第二約束期間が最後であり第三約束期間の設定は無いと明言していることが決定的である。EUが現在の方針を転換しない限り、「リオ・京都体制」のうちの「京都」部分は2020年で基本的に無くなる。CDMや各種報告制度など、京都議定書に規定される約束期間設定以外の要素が新たな枠組みに吸収されていくことはある。また、手続き的にも、新たな枠組みが京都議定書改正手続きに則って作られる可能性も理論上はあり得る。しかし、それは1997年以来我々がなじんできた国別数値目標の厳格な義務づけに象徴される「京都」体制と同質とはもはやいえないであろう。
「リオ・京都体制」の「リオ」部分である国連気候変動枠組条約については、より長続きするであろう。ただし、同条約に規定される基本原則である「衡平性(equity)」や「共通に有しているが差異のある責任」原則については、過去20年間の国際社会の変化や将来を見据えて如何に再定義すべきか、大きな議論がなされるであろう。その関連で、「先進国」と「途上国」を二分している同条約の附属書方式についても議論の俎上に上るかも知れない。温暖化対策と貿易や知的財産権との関係についても、特に先進国と新興途上国との間において、WTOにおけるのと同様な議論が、気候変動交渉の場でも繰り広げられるであろう。特に、前述の「ムチ」のアプローチについて、具体的事例を巡って対立的議論がなされる可能性も排除できないであろう。これらの論点についての議論が、今後交渉が本格化する新たな枠組み(ダーバン・プラットフォーム)に反映されていくであろう。
一連の交渉、議論を経て、2020年以降の国際枠組みがどのような形になるのかはまだ分からない。国連気候変動枠組条約の下に京都議定書に替わる新たな議定書が出来るのかも知れないし(「リオ・○○体制」)、条約の改正によるのかも知れない(「リオ体制ver2」)。本章において日本の取り組みとして紹介したような、グローバルな枠組を補完する地域協力や二国間協力の比重が高まる可能性もあるし(「リオ体制+α」)、これらの組み合わせになるかも知れない。2020年に至るこれからの数年間における、国連交渉での議論と、二国間協力や地域協力など様々なレベルでの国際連携の実績の積み重ねが、国際枠組みの形に影響を及ぼしていくであろう。
日本は、この国際枠組みの形成プロセスに参画する主要プレーヤーであり続けたし、これからもそうである。自らの国益と地球益を調和させつつ、新たな国際枠組みの構築に向けて積極的に発信していくべきである。
(つづく)