第3回 日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会委員長/新日鐵住金株式会社 環境部上席主幹・地球環境対策室長 岡崎照夫氏

日本は世界最高水準のエネルギー効率をさらに極め、世界に貢献する


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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排出権取引制度(ETS)は日本でも全く意味がない。

――欧州では排出権取引制度(ETS)を導入していますが、日本での可能性はいかがでしょうか?

岡崎:“西欧的な考え方”では、キャップを持って目標としながらそれに向かって行動し、オーバー達成すればそれは売れ、未達成のところは、買うかペナルティを払うという、一般的に極めて一見合理的に見える仕組みです(いわゆるキャップ・アンド・トレード)。

 日本は、第一約束期間の自主行動計画もそうですが、ギリギリ達成できるかどうか、最大限の努力代を織り込んだチャレンジングな目標を設定します。その意味では、目標をオーバー達成することは、結果的にチャレンジングな目標ではなかったのではないか、と仰る方もおられるわけです。

 そういう意味では、(前述の)二つの考え方は、全く逆です。排出権取引をやるのであれば、結局目標を境にして売り買いのバランスをしますので、結果としてそれほど難しいチャレンジングな目標は立てないでしょう。

 CO2総排出量は、経済規模に直結する指標であり、2020年の正確な経済規模は誰も読めない中で排出総量を目標にすることは極めて困難です。リーマンショックや東日本大震災など、思いもよらない事象が起きるかもしれない。

自主行動計画で目標達成。追加でクレジットを購入せずに済む可能性が高い

――総量規制の代替提案はありますか?

岡崎:現在の経団連自主行動計画において取り組む34業種の90年のCO2排出量は、5億トンで、そのうち鉄は2億トンを占めます。例えば石油連盟さんはCO2の原単位を目標にするなど、各業種がそれぞれ目標を持っています。「バラバラじゃないか」というご批判もいただきますが、すべての業種でCO2排出量はガイドラインに沿って計算しています。総量でどれだけ削減できたかについても、経団連全体、また業種ごとに公表しています。

 2010年度実績では、経団連全体として、90年に比べてCO2排出量は約12%減りました。経済成長をしていく中であっても、90年度比、±0%以下にするのが目標ですので、その目標は達成しています。また、12%の改善実績について、要因分析を行い、公表しております(概数ですが、生産規模の増加+5%、購入電力など排出係数影響-2%、エネルギー効率・CO2原単位改善-16%の総和で、12%の改善)。経団連は第三者評価委員会を作り、かつ政府が審議会でそれぞれの業種をフォローアップし、三重にチェックされ、それぞれの業種が説明責任を果たしています。

――長年、努力を積み重ねてこられたわけですね。

岡崎:海外に行くとよく誤解されるのですが、自主行動、つまりボランタリーは、海外では極めて無責任な響きがある。しかも海外では(日本と背景が異なる中、経団連タイプと異なるタイプの)自主行動計画の失敗例はいくらでもあります。しかし、日本の経団連の自主行動計画は、政府が決定した京都議定書目標達成計画の中でも明確に位置づけられており、最終的には法的拘束力のある(legally binding)目標ではありませんが、我々は政治的・社会的に拘束力のある、いわば社会へのコミットメントとして重く受け止め、必ず達成するとして取り組んでいます。

 2000年代前半には、鉄鋼業の排出量が少しずつ増えており、当時、目標達成が困難なことが想定されたため、京都メカニズムのクレジットを買い始めました。ピーク時には鉄鋼業トータルで、約5900万トン分のクレジットを契約していましたが、現在も約3500万トン分の契約が残っています(2011年公表)。その後、リーマンショックの影響で、CO2排出量は大きく減りましたが、震災後は原発が十分に稼働していないという問題があり、その分の鉄鋼業の排出量は次第に増えています。