第2回 日本経済団体連合会 資源・エネルギー対策委員会企画部会長 鯉沼晃氏
エネルギー政策は国家戦略の根幹。政府に責任あるエネルギー戦略をゼロから作り直してほしい
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
福島事故の原因究明と再発防止策の実施、その後にエネルギー・ミックスの議論をすべき。政府のシナリオでは、産業の空洞化は間違いなく進む
――政府が決定した2030年には原発ゼロを明記するとした革新的エネルギー・環境戦略についてもう少し詳しくご意見をお聞かせください。
鯉沼:まず本来は、原発の事故の原因究明、再発防止策の検討、この後にエネルギー基本計画の改定を行うという手順になるでしょう。まずは福島原発事故の原因究明をきちんと行い、その結果をふまえて、新しい安全基準の策定を含めて、確かな再発防止策を決定、実施する。その後にエネルギー・ミックスの議論をすべきだと考えています。論議の順番が逆になっておりますので、安全・安心を与えることができるのかどうか、そもそも事故の原因は本当はなんだったのかの議論が行われる前に、エネルギー・ミックスの議論をしたことは不本意に感じております。
そして、政府に提示された「革新的エネルギー・環境戦略」は、経済や雇用を支えている、われわれ経済界の声については全く反映されておりませんので、これについては到底受け入れられるものではありません。このままでは、国内産業の空洞化は加速し、国内における雇用の維持が困難になることは明らかです。
電気料金の値上げは一部で既に始まっておりますが、国際的には非常に高い電力になっています。さらにこの「革新的エネルギー・環境戦略」の内容に沿った再エネ・省エネの推進を行うと、極めて大きい値上がりが起こるというだけでなく、省エネのための投資等の面での負担も加わり、空洞化は間違いなく進むでしょう。
――空洞化が進むと、雇用などさまざまな問題が生じる懸念がありますね。
鯉沼:例えば、化学産業の場合、企業においての様々な投資計画がある中、事業拡張型の投資は、昨年以降、国内投資の案件があまり出て参りません。国内での経済性が成立しないため、先進国の中で非常に電力が安いのはアメリカや、資源的な意味でインドネシア、あるいは中国など、日本以外のところでの投資計画がほとんどを占めているというのが実態です。もしこの「革新的エネルギー・環境戦略」に従って進むことに万一なれば、国内の雇用が減少するのはもう目に見えているというのが現状です。そういう意味で、電力の安定供給という観点からも、原子力を含む多様性を国内で維持しないといけません。
また「原発稼働ゼロ」を本当の意味で目指すことを決定して宣言すれば、原子力の安全を支える技術や人材の確保が困難となるだけでなく、日米関係を含む外交・安全保障に大きな悪影響を与えるなど国益を大きく損なう結果を招くことになると捉えています。
エネルギー政策は国の基幹的政策ですから、国民生活やその生活のベースとなる雇用を守って、日本の経済成長を支えるものでなければなりません。政府には、責任あるエネルギー戦略をもう一度ゼロからつくり直して頂きたいと思っております。