卸電力市場活性化議論に持続性確保の視点を


Policy study group for electric power industry reform

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固定費回収漏れの問題に海外はどう対処しているか

 固定費の回収漏れの問題は、言いかえれば、市場に委ねるだけでは、社会から求められる供給信頼度、つまりは予備率が維持できないという問題である。海外のkWhの市場を採用している国や地域において、この問題にどのように対処しているか。前出のレポートによれば、多くは、供給信頼度維持に責任を持つ系統運用者(送電会社、ISOなど)が、市場外で必要な供給力を確保することで対処しており、そのコストは、託送料金を通じて系統利用者に転嫁される。ただし、市場の価格が自律的に適切な設備投資を促さなければ、系統運用者の市場外取引への依存が無限に拡大してしまうので、これはあくまで一時的な対処であり、問題の解決策ではないことに留意する必要がある。

 PJM等米国東海岸のISOでは、系統全体で確保すべき予備率を予め定め、電力小売事業者に対して「自らの需要規模×(1+所定の予備率)」に相当する供給力を事前に確保する義務を課している(供給力確保義務)。小売事業者は①自ら電源を保有する、②発電事業者と相対契約を結ぶ、③ISOが運営する発電設備容量市場で調達する、のいずれかの方法で、供給力の所要量を確保する。これは、kWhの市場とは別に、供給力確保義務の設定を通じて発電設備容量(kW)の市場を派生させ、電力小売を行う全ての事業者が自らの需要に見合った供給力を維持するコスト、つまり固定費を負担する仕組みを構築しようという試みである。このkWの市場は、PJMでも1998年の導入以来、たびたび制度変更を繰り返しており、まだまだ試行錯誤の途上にある制度であるが、最近では、欧州諸国でも関心が高まっている。規制時代の遺産である余剰設備が減少し、それ補う火力電源等への新規投資も再生可能エネルギーの増加に伴う採算悪化の懸念から進みにくくなっていることが背景で、英国等では導入に向けての具体的な動きが見られる。

まずは電力事業の持続性確保を

 日本の場合、一般電気事業者が各地域において供給信頼度を維持する役割を担っているものの、そのコストを誰が負担するべきか明確でなく、それを明確化することなく自由化を進めれば、新電力の合理的な行動が「フリーライダーになること」になってしまう危険性が大きい。
 広域メリットオーダー運用による効率化の利点はあるにせよ、この制度上の欠陥を放置したまま、静態的な市場原理に基づいて、一般電気事業者に可変費ベースの取引を強制することだけを追求するのは、事業の持続性確保の観点が欠落しているアイデアだと言わざるをえない。特に、原発の再稼働の遅れなど、事業者がコントロールできない事情によって電力需給がタイトな現況での実施は、慎重のうえにも慎重に行うべきだ。

 電力市場の自由化によるメリットも創出すべきだが、電気事業の安定性・持続性を喪失するデメリットは避けなければならない。両方を満たしうる制度構築を検討すべきであろう。そもそも、広域メリットオーダーによる、電気事業者間のメリットオーダーの調整は、事業者相互にとって利益になることなのだ。kWの市場の導入などによって、事業の持続性確保の問題がうまくクリアされるならば、強制措置によらずとも自然な市場取引の形で誘導される、と考えるべきだ。

(参考文献)
経済産業省,電力システム改革の基本方針(2012年7月)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/report_001_00.pdf

経済産業省,第3回電力システム改革専門委員会 事務局提出資料(2012年4月)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/003_s01_01b.pdf
※ スライド55枚目が該当部分

経済産業省,電気事業分科会答申「今後の望ましい電気事業制度の骨格について」
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/14th/tousin.pdf

電力改革研究会,テキサス州はなぜ電力不足になったのか(2012年8月)

The Brattle Group,A Comparison of PJM’s RPM with Alternative Energy and Capacity Market Designs(2009年9月)
http://www.brattle.com/_documents/UploadLibrary/Upload807.pdf

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