「経済か命か」は誤った二分法
— 経済と命の相関に着目をすべし —
堀越 秀彦
国際環境経済研究所主席研究員
もうひとつデータを紹介したい。下図は平成18年までの原因・動機別の自殺者数の推移である。平成10年以降、経済・生活問題を動機とする自殺者が増えている。
平成10年以降の自殺の増加について、京都大学の研究チームが経済指標との関係を解析している。「98年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増に最も影響力があった要因は、失業あるいは失業率の増加に代表される雇用・経済環境の悪化である可能性が高い」と述べている。
この研究の詳細は内閣府経済社会総合研究所により「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」として公開されているので、ご興味のある方は参照されたい。
さらに付け加えれば、歴史的にも経済の悪化が政情不安や戦争につながったこともあるだろう。「経済よりも命を」というスローガンにどれほどの覚悟が込められているのかはわからないが、命を大切に思えばこそ「原子力によって奪われる命」だけでなく「経済の悪化によって奪われる命」にも目を向けたいところである。
エネルギー政策はまさに苦渋の選択である。全ての要請を満たすエネルギー源はない。しかもわが国の資源は乏しい。これまであまり目が向けられていなかっただけで、エネルギー政策が苦渋の選択の連続であることは、いまに始まったことではないのかもしれない。今回求められている国民的議論はそのような現実に目を向ける格好の機会である。今後のエネルギー政策がどうなるにせよ、各選択肢による得失が明確化され、国民各層の理解と覚悟に基づいた選択となることを望む。