第1回 新日本製鐵株式会社 君津製鐵所
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
今回お邪魔したのは、新日本製鐵株式会社君津製鐵所。1020万㎡、東京ドーム220個分という広大な敷地に足を踏み入れてまず驚くのは、緑の豊かさ。敷地外辺に7㎞にわたって環境保全林が整備されているのは敷地地図でも把握していましたが、工場内の敷地のちょっとした隙間にも豊かな木々が生い茂っており、どこに目を向けても視界に木々が入り込むほどです。
新日鐵では、会社発足直後の1971年から全国すべての製鉄所において「郷土の森づくり」をさせたとのこと。当時同社の環境管理室室長だった式村健氏が、宮脇昭横浜国立大学教授(当時)に協力を依頼し、宮脇方式(=植樹地本来の植生を調べて樹種を確定し、樹種を取り混ぜたポット苗を1 平方メートルに3 本の割合で混植・密植する)による植樹がスタートしたそうです。現在、君津製鐵所だけで約200種110万本、全社では約700ヘクタール(東京ドーム約150個分)の郷土の森がつくられているというから驚きです。案内して下さった君津製鉄所安全環境防災部の重田マネジャーから、郷土の森づくりスタート当初の写真を見せていただきましたが、モノクロの写真に歴史の長さを感じます。地元出身の重田さんも、小学生の時にドングリを拾いポット苗を作る作業に参加されたそうで、一本一本の木の名前を、ご自身の子供を紹介するように教えてくださいました。
私が東京電力で尾瀬の保護活動を担当していたころ、作家の立松和平さんのお話を伺う機会がありました。立松さんは長年、栃木県足尾で植林活動を続けておられて、毎年の植樹祭では参加者に、地面に木を植えるだけでなく、心の中にも木を植えようと仰っていました。新日鐵の郷土の森づくりも、地面に木を植えただけでなく、社員・地域の皆さんの心に大きな木を植えたのでしょうね。
社員の心に植わった木が形になって表れたのが、例えば廃プラスチックのリサイクル。各地方自治体が一般家庭から回収する容器包装廃プラスチックを100%再資源化しています。その年間受け入れ量は全国で回収される容器包装廃プラスチックの3割に相当する約20万トンにもなるそうです。容器包装リサイクル法制定に向けて、自分たちが持つどのような技術をどう活用すればリサイクルを成功させられるか、積極的に実験し提案してきた経過を伺うことができました。日本のリサイクルシステムはこうした企業の貢献があって出来上がったのですね。
その他にも製鉄所の中には、環境を大切にするモッタイナイ精神がたくさん。日本鉄鋼業における主要省エネルギー技術の普及率はほぼ100%であり、その省エネルギー技術を全世界に移転・普及した場合のCO2 削減ポテンシャルは、約3.4 億t-CO2/年(日本の排出量の約3割に相当)であるという知識はあったのですが、実際にコークス炉から排出される熱を回収するシステムや、水を循環させ再利用している様子を拝見して、日本の鉄鋼業の「環境力」を体で感じることができました。
【世界最大級!】来ました、クライマックス!世界最大級の君津製鐵所第4高炉です。ちなみに私は消防士のような出で立ちをしていますが、これは貸していただいた見学服。一昨年、これまでの見学者累計が150万人を超えたというだけあって、ホスピタリティもまた素晴らしいのです!一日案内をしてくださった左から新日鐵君津製鐵所安全環境防災部の小関さん、本社環境部の林さん、一番右が地元出身で小関さんと同じく安全環境防災部の重田さん。君津製鐵所のお二人は入社以来ずっと君津勤務、生粋の「君津っ子」だそうです。
【第4高炉全景】世界に誇る新日鐵君津製鐵所第4高炉の全景です。新日鐵君津製鐵所では1日に東京タワー約7本分にもなる鉄を生産されているとか。7本分と言われましても・・・。ちなみに、新日鐵の環境報告書(http://www.nsc.co.jp/eco/report/pdf/h23.pdf)では、鉄の起源なども書かれていてとても興味深いです!137億年前のビックバンに遡るなんてロマンですね。
【第一製鋼工場】製鋼の過程について、元素記号から教えてくださった第一製鋼工場第一連鋳課長の加藤さん(青色の上着を着ている方です)を囲んで。「水兵リーベ・・・」を何十年ぶりに聞きました。
いちいち感心する私に、遠田安全環境防災部長が最後にぽつりと「当たり前のことだから」と仰ったのが象徴的でした。企業活動を通じた良い環境づくりのための工夫が盛りだくさん、そして森だくさんの新日鐵君津製鐵所。シリーズ第1回にして、「すごいぞ!日本企業の『環境力』」を「ホントにすごいぞ!日本企業の『環境力』」に変更しようかと悩みながら、君津を後にしたのでした。
新日本製鐵株式会社の皆さま、本当にありがとうございました!