スマートメーターは「光の道」と似ている
-スマートメーターをメタボにするな
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
粒度の高い計量は本当に必要か
まず、この30分ごとの電力消費量を計測するという仕様は、政府のスマートメーター制度検討会における検討の結果を踏まえたものである。したがって、本来、この点に関する意見は東京電力に言うより、政府に対して申し入れたほうがよい。しかし、批判者は、主に次の3点でこれでは不十分としている。
1.電力小売自由化に逆行する。この仕様では、自由化制度で求められる30分同時同量を果たせない。
2.デマンドレスポンス(DR)を有効に働かせ、ピーク需要削減を図るためには不十分である。
3.「モノのインターネット」のビジネスに対応するには不十分である。
それぞれについて、以下にコメントする。
まず、1.については、電力小売自由化は世界的に見てもスマートメーターが出現する前から行われてきたので、自由化に逆行すると言える根拠は薄く、的を射た指摘とは言えないだろう。小売自由化を行う場合、一定の時間区分で電力の供給量と消費量を確定させ、差があればそれを精算する仕組みは必ず必要である。これをBalancing Mechanismという。前回説明した「リアルタイム市場」はこうした機能を果たすものとして位置づけられている。
どの程度の時間で区分するかは国によってちがっていて、15分であったり、1時間であったりするが、日本の場合は30分で、その区分で消費量が計測できれば問題ない。日本の場合でも、実際に新電力は、自分が供給する顧客について、電力会社が計測した30分ごとの実績データの提供を受けながら、需給調整を問題なく行っている。精算に用いる料金(インバランス料金)について、電源が脱落したときのペナルティが高いとか市場価格との連動性がない、といった指摘はあるが、これはメーターの仕様とは無関係である。
次に2.について、日本は、30分計量の下で、季節別時間帯別(TOU)料金を昔から行っている。一般家庭でも7%程度の普及率であり、米国におけるTOU普及率(1%)よりもはるかに高い。他方、米国ではクリティカルピーク料金(CPP)、リアルタイム料金(RTP)、ピークタイムリベート(PTR)といった新しいタイプの料金メニューが徐々に普及し始めているが、これらもすべて30分計量で問題なく導入できる。
総じて、目的がピーク需要削減だけなら、30分計量で全く問題はない。更に粒度の細かいデータが必要なケースをあえて探すと、ピーク需要削減の域を超えて、数秒~数分オーダーの周波数の変動を、DRを活用して調整するようなケース(例えば、風力発電の変動にあわせて、電気自動車の蓄電池の充放電パターンを数分オーダーで変化させるなど)であるが、これは、欧米でも、まだ事例はごくわずかであり、少なくとも、一般家庭がこのようなDRの対象になっているような話は聞かない。将来、一般家庭の電気設備や電気自動車の蓄電池を活用して周波数制御を行うようになるとしても、全ての世帯がこれに対応できる必要があるだろうか。
最後に3.について、「モノのインターネット」のビジネスとしてよく聞かされるのは、独居老人の見守りサービス、ホームセキュリティ等である。ただ、スマートメーターの計測の粒度を上げることとの関連がよく分からない。スマートメーターはどんなに粒度を上げても所詮家全体の電力消費量を計測するだけである。例えば、独居老人の見守りサービスで必要なデータは、冷蔵庫の開け閉めの頻度とか、テレビがついている時間とか、個別の機器のデータではないのだろうか。また、仮に家全体の粒度の高い電力消費量のデータが意味があるとしても、全ての世帯がこうした計測の仕様を必要とするだろうか。
こうした必要性の有る無しの議論は、以前話題になった「光の道」構想を想起させる。