先人に学ぶ2 ~ドイツの挫折 太陽光発電の「全量」買取制度、廃止へ~


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 2012年2月10日の記事 で、ドイツの雑誌シュピーゲル誌掲載の記事から、太陽光発電の全量固定価格買取制度が大きな政治問題に発展していることを紹介した。ドイツでは、太陽光発電のオーナーたちが得た補助金は80億ユーロ(約8600億円)を超えるにもかかわらず、雪の多い冬季は何週間も発電できず、1年間を通してみると3%程度の不安定な電気を生産するに過ぎない。国民の怒りが膨らむのも当然であろう。今回はその続報である。

 ドイツ連邦環境省のプレスリリースによると、連邦環境省と連邦経済技術省は2012年2月23日、太陽光発電を対象とする全量固定価格買い取り制度の大幅な見直し案を発表した。2012年3月9日以降に系統に連携する太陽光発電については、2013年から各設備の発電量の85~90%までの買い取りに制限すること、加えて、2012年3月9日からの買い取り価格引き下げ、および買い取り価格の改訂(引き下げ)頻度をこれまでの半年から月毎へ変更することも提案されている

 また、2011年の1年間だけで約750万kWもの導入があったことを踏まえて、2012年と2013年において250-350万kWの導入制限も提案されている。日本では、見習うべき成功事例として取り上げられるだけであったドイツの全量買取制度も、実態は前回ご紹介した通りで、「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤りになる可能性がある」(シュピーゲル誌)ということだったのである。

 皮肉なことに、私がこのニュースを知った12年2月25日の日本経済新聞9面に、「メガソーラー参入加速」という記事があった。日本でも今年7月から全量買取制度が導入されるため、各社がメガソーラー(大規模太陽光発電所)建設に乗り出しているというのだ。企業であれば、これはきわめて正しい行動だ。固定価格買取制度にいち早く乗れば、絶対に損せず、労せず儲けることができるからである。

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メガソーラー導入の甘い誘惑

 固定価格買取制度というのは、その名の通り、買取価格を「固定」するものである。再生可能エネルギー事業者間に競争はなく、営業努力はまったく不要だ。国が定めた高い価格で、一定期間買い取ってもらうことができる。つまり、顧客も価格も固定された制度といえる。

 さらに、制度の基本設計は、技術の普及にともなって買取価格を徐々に低減させていくこととなっている。これが意味するところは、現在の技術(それが不完全なものであっても)の普及を促す力はあっても、技術開発を促す力は非常に弱いということだろう。

 たとえば、今、中国から安い太陽光パネルを大量に輸入してメガソーラーを設置すれば、高い価格(例えば1kW時あたり45円など)で一定期間確実に買い取ってもらえる。太陽電池メーカーとしては、数年後、買い取り価格の下落分を補って余りある高効率技術を開発する相当の自信でもない限り、技術開発を続ける気にはなれないだろう。まさに「早い者勝ち」なのだ。

 ドイツでも、買取価格が見直される前にと皆が考え、2011年に駆け込みで設置されたパネルからの発電量買い上げだけでも、今後20年間で180億ユーロ(1兆9400億円)になるとの試算があると前回紹介したが、「早い者勝ち」された国民は、長年にわたり大きな負担を背負い続けることとなる。

 再生可能エネルギーの導入に関して、「日本は周回遅れだ」あるいは「日本だけがバスに乗り遅れている」と揶揄する声をよく耳にする。しかし、行き先を間違ったバスに駆け込む必要はない。「焦った時こそ慎重に行動する」、「引き返せる時に引き返す」、これが、今、我々に求められる態度ではないだろうか。

 もちろん、今回の修正案に対し、ドイツで緑の党は「脱太陽光法」であるとして断固反対を表明しているそうである。すでに中国勢に押されて厳しい経営状況に置かれているドイツ国内の太陽光発電関連メーカーも命がけで反対するであろう。この修正案が今後どうなるか、「先人」の判断に注目したい。

ドイツ連邦環境省プレスリリース
http://www.bmu.de/pressemitteilungen/aktuelle_pressemitteilungen/pm/48390.php
http://www.bmu.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/ergebnispapier__eu-effizienzrichtlinie.pdf

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