先人に学ぶ ~ドイツの太陽光発電導入政策の実態~


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 2002年に成立したエネルギー政策基本法は、「3つのE」(安定供給、環境保全、経済性)を基本方針と定めている。電気事業者は、この3つのEを同時達成することが使命(電気事業連合会ホームページより)とするが、同時にすべてを満たすことは無理であり、どうバランスをとるかの話である。

 政策目的として何を一番重要視するかは、その時代の状況に大きく左右される。ここ数十年の日本のエネルギー政策を振り返ると、大きく3つの時期に整理できる。

 1973年の第一次オイルショックの後は、エネルギーの量的確保、すなわち安定供給が最重要視された。バブル景気崩壊後の1990年代には、量的確保に加えて経済性が求められた。電力市場に競争原理を導入する検討が進められたのはこの時期だ。そして1997年の京都議定書採択後から震災直前までは、地球温暖化対策、即ち環境性が求められていた。現行のエネルギー基本計画が2030年見通しで原子力発電の比率を53%としているのは、民主党の鳩山政権が掲げた「温室効果ガス1990年比25%削減目標」という無理な数字のつじつまを合わせられる手段がこれ以外なかったからだが、これを国のエネルギー基本計画とする価値観がそこにあったわけだ。

 東日本大震災により、日本人は2つの強烈な経験をした。一つは原子力発電所の事故。もう一つは計画停電である。前者により原子力発電を使い続けることへの疑問・嫌悪が生じ、後者により電力の量的確保の必要性を実感した。
 諸外国と比べて圧倒的に停電の少ない日本においては、停電を経験したことがないという方も少なからずいるだろう。かくいう私もその一人であり、震災後の計画停電により、電気は生活の必需品という事実を初めて体感的に理解した次第である。

 この2つの強烈な経験を経て、「脱」あるいは「卒」原発しつつエネルギーを供給する「第三の手段」として再生可能エネルギーの導入拡大が大きく議論されているが、果たしてそれが問題解決につながるのか。興味深いレポートがあるので紹介したい。

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太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤り?

 ドイツの雑誌シュピーゲルは、冬のドイツではよくあることながら、ここ数週間、国内の太陽光発電設備がまったくといっていいほど発電していないこと、太陽光発電設備のオーナーたちが80億ユーロ(8240億円)を超える補助金を受け取ったにもかかわらず、全体の3%程度の、しかもいつどれくらいの量かが予見不能な電力を生み出すに過ぎないと断じ、再生可能エネルギーに対する補助金制度を見直す動きが活発化していると伝えている。「補助金が引き下げになる前に」と、2011年に駆けこみで設置されたパネルの発電量買い上げだけでも、今後20年間で180億ユーロ(1兆8500億円)にもなるとの試算もあり、消費者が負担するサーチャージは間もなく1kW時あたり4.7ユーロセント(4.8円)、平均的な家庭で年間200ユーロ(2万600円)もの負担増となる見込みだという。

 これだけ補助金を出しても、国内に還流され、産業が育つのであれば国民の理解も得られるだろう。しかし、現実はそうはなっていない。ドイツに本拠を置く世界最大手の太陽光発電メーカーQセルズ社の2011年売上高は、前年比で31%減少し(1~9月、3四半期間累計)、3億6600万ユーロ(377億円)もの損失を計上している。2007年末には100ユーロ(1万300円)近かった株価も、現在0.35ユーロ(36円)まで落ち込んでおり、早急な経営再建が求められている。

 さらに言えば、ドイツ商工会議所(German Chamber of Industry and Commerce)がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによると、エネルギーコストと供給不安を理由に、5分の1の会社が、国外に出て行ったか、出て行くことを考えているという。

 ドイツでは、太陽光発電をどう位置づけるかが政権の基盤を揺るがしかねない問題になっている。野党だけでなく与党からも連携して、環境大臣に対し、今後の補助金制度に対する見解を問う質問書を出したほか、連立を組む自由民主党(FDP)のレスラー党首は、これまで太陽光補助金に反対してきたことを「売り」にするなど大きな争点となっている。

 電力インフラの整備には非常に長い時間を要するうえ、経済活動に与える影響が大きいことから、高速道路の無料化のような社会実験はできない。それだけに、諸外国の先行事例はその結果をよくよく分析すべきだろう。「欧米で導入している」で突き進むと、同じ轍を踏む。「欧米で導入した結果どうなったか」が重要である。

 「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤りになる可能性がある」というシュピーゲル誌の見解は、少なくとも日本でも広く共有されるべき認識であろう。

出典
http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,809439,00.html

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