COP17を巡る諸外国の動向等について
手塚 宏之
国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)
現在のシステムの延長線上に温暖化問題の克服はない
それではどうすればよいのか?何か打つ手はないのか?
今、世界が合意すべきことは、合意できない交渉を延々と続ける一方で、途上国を中心に拡大を続けるエネルギー消費や、GHG排出の増加を放置することではない。たとえ自主的で、拘束力のあるものではなくても、具体的な省エネ、実質的なGHG排出削減につながる「アクション」を起こすことである。
途上国が経済発展していく過程で、最小限のエネルギー消費で同じ富を生み出すことができれば、そうでない場合に比べ、GHG排出量は抑制することができる。最高効率の省エネ、省資源技術を世界中に普及させることは、そもそも途上国にとっても経済的に価値があり、必ずしも義務的な国際枠組みを必要としない。そうした技術の移転や協力を促進するための制度は、技術を持つ国・企業と、技術を求める国・企業の間で合意すれば、国連の枠組みを待たずとも直ちに実行に移せるものである。
日本政府が進めている「二国間オフセット制度」は、まさにこうしたボトムアップで自主的な省エネ、環境対策を進めるための政策提案となっている。一方、先進国の立場から見れば、途上国の経済発展に伴い資源・エネルギー価格が上昇することを見越して、省エネルギー技術の開発を推進・強化することが、経済的に合理的な戦略となる。
こうしたボトムアップで個別技術的な対策によって、「2050年GHG半減」といった目標を達成できる保証はないが、排出増を確実に遅らせる効果は期待できる。1つのプロジェクトが実施されるごとに確実に進捗が期待でき、目標だけ掲げて何も実施されない場合より遥かに実効的である。
同時に短期的な対策として、気候変動が引き起こす自然災害に対する最貧国の抵抗力を強化することだ。こうした対策は、従来のODA(政府開発援助)や世界銀行など、既存の途上国開発支援の枠組みの中で焦点を絞って対処することで、すぐにでも実施可能であり、必ずしも気候変動枠組み条約の新たな議定書を必要としない。
最後に、今後、途上国の経済が持続的に成長し、70億の人口(今世紀半ばには90億人になるとも言われている)が衣食住の足りた人間的な生活を送るためには、現状に比べてはるかに膨大なエネルギーを供給する必要がある。それには、現在の有限な化石燃料、高コストで不安定な再生可能エネルギーだけでは不十分であることは明らかである。長期的に見れば、化石燃料に代替しうる「安価で万人がアクセス可能な安定的なエネルギー」を供給する革新的技術の開発が必須となる。
豊かな先進国においてすら、恒常的な補助金、高額の買取制度(FIT)で支援しなければ普及しない太陽光や風力といった現状の再生可能エネルギーが、自律的に化石燃料に代替していくことは考えられない。ましてや今後、膨大なエネルギー需要が発生する途上国において、そうした補助金前提の高価なエネルギーで供給を満たすことはありえない。
したがって、石炭、天然ガスのコストを下回る、真に革新的で実用的なエネルギー技術を開発することこそが、温暖化対策のみならず人類に求められているのである。そうした革新エネルギー技術を人類が手にしたとき、化石燃料依存からはじめて自然体で脱却することが可能となり、議定書や条約に頼ることなくGHGによる温暖化リスクからもおのずと解放されることになる。