北京の大気汚染レベルは「軽微汚染」か?


国際環境経済研究所理事長

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 北京の米国大使館は、大気中の粒径2.5μm以下の浮遊粒子状物質濃度(PM2.5)とオゾンを測定し、北京の大気汚染状況を1時間ごとにツイッターで公表している( http://twitter.com/beijingair )。

 2011年11月21日15時のツイートを見ると、「PM2.5;測定値132.0μg/m3;Air Quality Index189;Unhealthy(不健康)」となっている。米環境省(EPA)が定めている「Air Quality Index」という指標に照らすと、「151~200」は不健康という評価になる。これに対して、北京市環境局は「北京オリンピック後の空気の質は安定しており、このレベルは軽微汚染である」と反論したと日経新聞が報じている。

 中国では、浮遊粒子状物質濃度を粒径10μm以下(PM10)で管理しており、米国の基準と異なる。その基準によると、人の健康にまったく影響を与えない環境基準(1級基準)は1日の平均で50μg/m3。被害を発生させない程度の基準(2級基準)は150μg/m3とされている。PM2.5の132.0μg/m3は、PM10に換算すると200μg/m3以上と推測されるため、北京市当局は「軽微汚染」と評価したと思われる。しかし、この数値は日本の基準と比較してもかなりの汚染レベルであると言える。

 浮遊粒子状物質濃度は、工場のばい煙や自動車の排気ガス等の人為的な要素に加えて、黄砂などの自然要因によっても悪化する。これは、ぜんそくや気管支炎の原因とされている。北京市民もこの状況に気づきはじめ、インターネット上でも問題視する声が高まりつつある。

冬到来で、深刻化する大気汚染

 北京の冬は寒い。「胡同(フートン)」といわれる清代以来の四合院(しごういん)と呼ばれる家屋に住む人たちの煮炊きには、石炭の粉を固めた練炭が使われる。自転車が引くリヤカーの上に、練炭が一杯積んで運ばれるのは北京の冬の風物詩だ。亜硫酸ガス(二酸化硫黄)の揮発性ガス特有の臭いがツンと鼻につき、冷たい空気が煙って見える。2005年に北京に赴任したとき、夜空に星が見えることはほとんどなかった。町を歩き回ったあとに鼻をかむと、黒いものが出たりした。

 その後、2008年の北京オリンピックの成功を目指し、北京市はWHO(世界保健機関)のガイドライン達成に向けて、UNEP(国連環境計画)と協力して環境改善に取り組んだ。オリンピック期間中は工場の操業を停止し、自動車の流入規制を行い、さらには人工降雨も計画するなど、あらゆる対策がなされた。この結果、北京にも青空が見えるようになり、「中国の空気も綺麗になったものだ」と当時は感心した。脱硫装置の設置により、硫黄酸化物(SOx)などは第11次5ヵ年計画(2006~2010年)で10%以上の削減を行った。しかし、浮遊粒子状物質については、WHOガイドラインであるPM10(1日平均50μg/m3)をオリンピック期間中でも達成できなかった。

 オリンピックが終わり平時に戻ると、自動車の数は再び増え、環境の悪化が懸念されるようになってきた。飛行機で北京空港に近づくと、スモッグが垂れ込め、黄色い雲が傘のように上空にかぶさって見える。北京は三方を山に囲まれており、空気が淀み易い地形であるからなおさらだ。

 これから本格的な冬を迎え、石炭による暖房が本格化する季節となる。北京の大気汚染はさらに深刻さを増す。

米国に本部を置く中国政府に批判的なTV局「新唐人TV(New Tang Dynasty Television)」( http://www.ntdtv.jp/ )は、『北京の深刻な大気汚染 当局「軽度汚染」』(新唐人日本2011年11月9日付)をYou Tubeで流している。

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