震災を機に評価高まる都市ガスの可能性[前編]

発電と熱利用で安定的なエネルギー需給に貢献へ


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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臨時供給設備の備えで復旧は容易になる

――全国の事業者が復旧に向けて協力する体制が組まれているのですね。

池島:全国の都市ガス事業者が協力して、ピーク時で約4100人の復旧隊員が被災地に入って応援をしました。きわめて迅速に対応できたのは、阪神、中越、中越沖と同じような経験を積み、都市ガス事業者のなかで応援の仕組みができあがっていたからです。これまでの経験が、いい方向に働いたと思います。

――震災直後、お客様からの問い合わせが殺到したのではないでしょうか。

池島:「どうなってるのか」、「いつガスが出るのか」というお問い合わせは非常に多くありました。こうしたお客様対応も、いくつかの震災を経て、阪神大震災の時よりも相当進化しました。
 たとえば阪神大震災では、初めてガスを止めて復旧するということを経験したわけですが、当時は、「今、○%復旧です」とお伝えしていました。しかしお客様にとっては、50%であろうと60%であろうと、自宅のガスがいつ出るかが大事なわけで、社会に対する情報伝達としては十分でなかったと思います。今回の震災では、個々のお客様に復旧情報を伝えるために、ホームページを活用したり広報車を巡回させたりするなど、さまざまな工夫をしました。ただ、確実な復旧時間は言えませんでしたので、「いつになるんだろう」とお待ちになったお客様もあったかと思います。ご不便おかけしたことは、本当に申し訳ないことだったと思います。

――災害対策において、今後どのような課題に取り組まねばならないとお考えですか。

池島:特に津波に対しては、設備をもう一回見直す必要があると思います。もう一つは、今回非常にうまくいった「臨時供給」という仕組みの活用です。これは、設備は壊れていますが、なんとか臨時供給で早期にガス供給を再開しようという工夫で、これほど大規模に活用したのは今回が初めてでした。
 阪神大震災以降、経済産業省のご支援をいただき、有事の際に臨時に運べる臨時供給設備を全国で約500基以上整備しておりましたが、今回はそれを集結して現場に持ち込みました。
 ある製造所では、LNG輸送用のLNGローリー車を現地に常駐させ、LNGタンク替わりに利用しました。本来はローリー車からタンクにLNGを移して、その後、LNG気化器を通じてガスを製造するのですが、タンクも気化器も津波で機能しなくなったための応急策です。LNG気化器も別の所から持ち込み、臭いを付ける付臭設備を現場で仮設しました。製造所が壊滅的な被害を受けましたので、こうした臨時供給設備を設置することで、本格復旧より何カ月も早く都市ガス供給を再開することが可能になりました。今後、病院などの重要施設への臨時供給や、壊滅した製造所へのプラントの移設など、全国のガス事業者のネットワークを活用したシステマティックな復旧の仕組みを確立していこうと思っています。

LNGローリー車と仮設気化器を利用した臨時の都市ガス製造・供給設備(宮城県石巻市
LNGローリー車と仮設気化器を利用した臨時の都市ガス製造・供給設備(宮城県石巻市)