再生可能エネルギー促進法は理解されたか?
堀越 秀彦
国際環境経済研究所主席研究員
エネルギー政策には冷静な議論が必要に
全量固定価格買取制度については、総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会・電気事業分科会の買取制度小委員会も国民の理解不足を指摘している。2月18日付けの報告書「再生可能エネルギーの全量買取制度における詳細制度設計について」では、「制度の趣旨や負担の内容について、それぞれの立場に応じた十分な周知・広報が必要となり、特に、再生可能エネルギー発電設備を導入していない電力需要家に対して十分な説明を行うことが重要である」と、国民への説明の重要性を説いている。
しかし、その直後に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故に国民の関心が集中し、さらには政局の混乱の中にあって、制度の趣旨や負担の内容について十分な説明がなされたのか、はなはだ疑問だ。ここにきて、制度の趣旨や負担の内容ではなく、成立時期(と菅首相の進退)だけが主要な問題とされている状況には違和感を覚えざるを得ない。
ここでは、本制度の良し悪しについて批評するつもりはない。しかし、一般的にエネルギー政策は国民生活や産業、さらには国家安全保障にも影響を与えるものであり、効果の副作用としてリスクやデメリットが伴うものだと考える。危険物質を扱う事業と同じように、相応のリスクコミュニケーションが必要ではないだろうか。
特に本件は、もともと十分な説明の必要性が認識されていた制度である。にもかかわらず、今回の経緯をみると「目前の原発による危機を回避するため(そのためには再生可能エネルギー)」という緊急時の国民感情に依拠して、十分な説明とコンセンサス形成のプロセスが省略されたままになっている懸念がある。
脱原発の気運と再生可能エネルギーへの期待が高まることは自然な流れだろう。しかし、冷静な検討や批判を許さない状況のなかで、十分な説明や冷静な議論もないまま法案審議が進んでいることに、社会的意思決定プロセスの面での悪しき前例となるのではないかという不安を抱いている。