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ポスト京都に向け、次の手を探る欧州


元大阪大学特任準教授


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EUは排出権価格の維持に躍起

 さらにEUは、2020年目標を30%に引き上げることで、国際的な議論をリードしたいとの思惑があるようだが、その関連の議論からも、2020年頃までの炭素価格が低迷しそうな状況にあることが推察される。欧州委員会は2008年に、2020年頃の炭素価格を1tあたり約30ユーロと推計していたが、その後の経済危機等により大幅な余剰排出枠が生じ、2020年頃の排出権価格は20ユーロ未満にとどまるとの見通しも出ている。そこで、2020年目標を30%に設定しなおすことなどで、排出権価格を30ユーロに引き上げようとの議論が出ているわけだ。しかし、こうした動きに対して、30ユーロに引き上げるというだけでも、欧州産業界から国際競争力の低下等を理由にした、強硬な反対論が噴出している。ひとけた以上高い炭素価格が必要な目標を議論している日本とは別世界のようにも見える。

 炭素価格低迷への政府側の懸念は大きい。2013年以降本格化する排出権オークションに期待されていた、何兆円規模の政府への追加収入が、画餅と化してしまう可能性が出てきたからだ。これを受け、従来有効だとしていたクレジットを後から無効にするとのルール変更を、民間企業の意見を反映させずに決めてしまった。国連で承認されている一部のCDMクレジットを2013年5月以降無効にしてしまったのだ。市場がスタートした後にこうした政府介入が起きると、民間企業は市場を信頼した行動を取ることができなくなり、本来期待されていたような投資が起きなくなる可能性がある。政策次第で何でも起きてしまう、排出権取引制度の脆弱性が白日の下に曝されたとも言える。

 少なくとも2020年頃まで、CDMや現在検討中の新しい市場メカニズムから創出されるであろう国際クレジットへの需要があまり多くないことが明確になってきた点は重要である。少なくともEUでは、現在を上回る規模の国際クレジット需要が創出されない可能性が強くなった。この点が、途上国を巻き込んだ今後の国際交渉に与える影響は大きいかもしれない。排出権を通じてEUから途上国に流れる資金が、現在よりも増加しないどころか減少するかもしれないことが、ロードマップを通じて明確になってきたのである。

 それだけではない。日本の二国間クレジットに触発されたのか、EUでも類似のクレジットを獲得することを目指した動きが、中国やブラジル、南アフリカなどを相手に開始されつつある。EUらしい、したたかな動きとも言える。国連での新市場メカニズムの議論がどうなるかわからないが、需要が明確でないまま、供給だけ増加させる議論がうまく進められるのか、今後の展開が興味深い。

 2050年低炭素ロードマップは、まだボトムアップによる個別セクターなどでの具体的対策の裏付けが十分ではない。今年後半に発表予定のエネルギー・ロードマップなど、低炭素ロードマップを実現するための具体策の詳細を注意深く見ていく必要がある。欧州産業界は、EU-ETSの総量Cap削減率の見直しなどについてすでに反発しだしており、そうした議論がどの程度影響していくかも興味深い。

 EUの今後の国際交渉戦略は、まだ明確になっていない。域内政策を固めつつ、手探りを始めつつあるように見えるEUが、国際戦略をどう組み直していくのか、今後のEUの動きには引き続き留意が必要だろう。

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