東北経済復興と地球温暖化~復興と防災国家構築と~


国際環境経済研究所理事長

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 東日本大震災の発生以来、5カ月近く経過したが、東北経済の復興が目に見えて進んでいるようには感じられない。いまだに現地では瓦礫の処理が滞っている。復興の実感は、瓦礫を撤去して、そこに新しい家が建ち、周辺一帯に電気やガス、水道などのユーテリティーが回復して、はじめて湧いてくるものではないだろうか。

 政治のリーダーシップは、「復興」の方向をきちんと向いているようには思えない。各地の原発の停止で、電力の回復も順調には進んでいない。多くの企業が、東日本の電力不足対策に対応して工場やコンピュータなどを西日本にシフトしたが、今度は唐突な脱原発で西日本の電力供給が心もとなくなっている。

 こうしたなか、中国や韓国の工業開発区は、数年間に及ぶ法人税の減免、輸入関税の免除などに加えて、電力の優先提供も含めた多くの魅力的な優遇策を提示している。苛烈な国際競争に晒される企業が、海外生産を真剣に考えるのは当然であろう。

 日本は地震列島であり、今後発生するといわれている東海・東南海・南海地震を想定した防災対策を講じなければならない。産業立地の多くは、原材料の輸入と製品輸出の利便性から臨海に位置しているが、東日本大震災のような地震・大津波対策は十分とはいえない。「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズは平時しか頭にない発想である。今回の被災経験を基に、緊急時を意識した「防災国家」を再構築する必要がある。

 すべてに優先するのは「人命を救う」ことだ。今回の事例から、大津波は完全には防げないことがわかった。今後は、防波・防潮堤や盛土した高速道路で災害を「減災」させることを基本にすべきだろう。高台への住居移転を促進するとともに、どうしても移れない臨海部の工業地帯などでは、避難タワーや工場の屋上を利用した避難所や非常階段を設置することも必要である。

 また、今回のような災害時に事業活動を早期に復旧させるためには、平時には必要ない「冗長性(リダンダンシー)」を考慮したインフラの整備が必要になってくる。たとえば、被災企業が早期に復旧するためには、電気設備が水に浸からないように、二階部分に嵩上げするなどの工夫が必要だ。

 東名高速、東海道新幹線などの幹線網が仮に不通になった場合に、食料や物資、人などを運べる第二東名、リニア新幹線などの代替交通網の整備が望まれる。電気やガス、水道などのユーテリティーについても、早期に復旧できる仕組みを考えなければならない。情報通信ネットワークも、東西両拠点でバックアップする必要がある。

 企業が安心して日本で生産し、雇用を守り続けられるようにするために、「東北復興防災モデル特区」をつくり、復興資金の重点投入と、官民の人材・資金の投入で新しい防災国家をつくるのはどうだろうか。これが成功したら、全国に展開していく。

 日本は、18世紀にリスボン大地震でポルトガルが没落した轍を踏んではならない。

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