新しい欧州排出権取引システムの落とし穴


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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ETSが企業投資を阻害し、投機対象となる懸念

 さらに、シュピーゲル誌は、ETSが企業投資を阻害したり、投機の対象となったりする懸念を次のように指摘している。

 「ETSの第3期では、事業を拡大する会社が追加の排出権証書を受け取ることができるのは、生産能力を10%以上拡大する場合に限られる。換言すると、生産能力拡張が10%に満たない場合は、すでに与えられている排出権割当量の範囲内でやりくりしなければならない。結果として、排出権取引により成長が阻害される可能性がある」

 「排出権取引は排出権証書の価格動向に賭ける投機家にとっての金脈となる可能性もある。CO2市場はまだ小規模で規制も厳しくない。トレーダーに対するポジションの制限、すなわち売買可能な契約の量に対する制限も存在しない。事業会社は価格変動に適応せざるを得ないため、力のある金融トレーダーが意のままに価格を動かし、排出権証書に依存する事業会社に悪影響を与える可能性があるという懸念もある」としている。

 つまり、排出権取引はインサイダー取引や投機の温床になりかねないというわけである。企業は生産活動に必要な排出枠のコストが乱高下する中、製造原価も予想できないまま生産計画を策定しなくてはならなくなるのである。